促されるままに洗面台に手をついて、後ろから覆いかぶさられる。
前を向くと鏡に映る自分達が見えてしまうので、自然と顔は下を向く。
水滴ひとつ残さず綺麗に拭き取られた白い洗面台と、自分の手しか見えない状態。
そこにもう1本の腕が現れて、オレの体にぴたりとくっついた。
オレの体を這うように前に回された獄寺君の手のひらは、そのままゆっくりと這い上がってくる。
緩められていたネクタイにもう一度手がかかり、今度は完全に抜き取られた。
ネクタイは綺麗な動作で洗面台の上にふわりと置かれる。
白い洗面台と、そこに置かれたネクタイの境界線はあいまいで、黒い水玉だけがぽつりぽつりとはっきりと見えた。
ぼんやりとそれを眺めているうちにシャツのボタンは片手で器用に外されてしまい、
もう片方の手が腰に這わされて、這い上がってくるぞくぞくとした感覚に目をつぶる。
シャツが揺れ、獄寺君の手がシャツの内側に入り込んでくるのが分かる。
胸元をそっと撫でられ、それから肉の無い胸を揉み込むようにされる。
外気にさらされて肌寒く感じるところに獄寺君の熱が伝わってぞくりとした。
その間も手は動き続け、乳首をきゅっとつままれる。
唇をかんで何とか声を出さずに済んだけれど、
それが気に入らなかったのか、指の動きが少しだけ乱暴なものに変わる。
つまんだままのそれを親指と人差し指で擦り合わされると、
閉じていた口からも少しずつ息が漏れ始める。
そのままきゅう、と引っ張られるともう駄目で、体が震えて洗面台にすがりついた。
腰の辺りをゆるゆると撫でていたもう片方の手がするすると上に上がってきて、
今度は触られていなかった方の乳首をシャツの上から撫でられて、体中が粟立った。
「ん、あっ・・・!」
びくびくと体を震わせると、後ろから楽しそうに笑う気配が。
「10代目、こっちもちゃんと触って欲しいって、シャツの上からでも分かるくらい立ってましたよ」
「やぁっ・・・」
ねっとりと耳の裏側を舐められて、
その濡れた感触とかけられた言葉のいやらしさに喉が震えた。
体を反らせても覆いかぶさる獄寺君の体に当たって逃げられない。
さらに獄寺君の指は執拗にオレを追いかけて、
ゆっくりと、乳首を押しつぶすように刺激する。
「ひっう・・・!」
押しつぶされるたびに感じるコリコリとした感触に、
自分の体の状態に気付かされて恥ずかしさに顔を振る。
それでも獄寺君はぐりぐりと押しつぶす手を休めずにオレを追い詰める。
「やっあ、ぁ・・・!」
押しつぶしていたものをまた急に引っ張られ、体がびくんと震える。
腕の力が抜けて自分の体を支えることができなくなって、がくんと前のめりになる。
そのまま追ってきた獄寺君の指になおも乳首を刺激されて、オレはまた高く泣き声を上げた。
「腰が振れてますよ。そんなに気持ちいいですか?」
耳たぶを軽く噛まれながらそっと息を吹きかけられて、オレも熱い息を吐き出した。
ねっとりと耳の輪郭を舐められて頭の中に濡れた音が響く。
その音を振り払いたくて頭を振っても、獄寺君は後を追いかけてきて逃げられない。
「ぁ、ぁ・・・」
「10代目、次、どこを触って欲しいですか?」
耳の中に舌を入れながら聞かれる言葉に、頭の中が恥ずかしさで沸騰する。
「や、だ・・・」
「嫌ですか?もう触って欲しくない?」
「やっ!触って・・・あっ!」
恥ずかしくて思わず否定すると意地悪く離れようとする指に恥も忘れて懇願すれば、さらに強く刺激される。
「ここだけでいいんですか?」
「ぁ・・・した、下も触って欲し・・・っ」
きゅっきゅっとリズム良く乳首を揉み込まれるのに翻弄されて、オレは思わず言ってしまった。
獄寺君は口早に分かりました、と告げて、右手を下に下ろしていく。
両手でやってくれれば早いのに片手でやるものだから、ベルトをはずすのに時間がかかる。
そのじれったさに腰を振ると、動いた罰だとでもいうように左手に乳首を強くつままれた。
「や、痛ぁっ・・・」
「痛いだけじゃないんでしょう?それだけならこんなに勃たせたりしませんよね?」
「ぅあ・・・」
ベルトを外しただけで手はさらに下に動き、布越しに性器を包み込まれて、
それまでとは違った直接的な快感に身悶える。
揉みこむような手のひらの動きに腕の力は完全に抜けて、
胸を刺激する獄寺君の手に支えられている状態だ。
「獄寺君、お願い・・・」
「何ですか?」
気持ちよくて、すぐにでも達してしまいたいのに。
獄寺君の手がオレに刺激を与えるたびにごわごわとした感触のせいで現実に引き戻される。
このまま達してしまったら大変なことになる。
震える腕に力を入れて、右手をゆっくりと移動させる。
いまだにゆるゆると刺激してくる意地悪な手に触れて。
「直接、さわって・・・!」
言い終わると同時にそれまでの緩慢な動きとは打って変わって素早くボタンを外し、チャックを下ろす。
開いたそこから手を差し込み、トランクスをずらされると中から元気になったものが勢い良く飛び出してしまう。
うっすらと開いていた目をもう一度強くつぶって、意地悪く言われるだろう言葉を耐えようとする。
「っあ、んッ!」
いつもならばそこでからかいの一つも言われるのだけど、獄寺君は無言でオレの性器を直接すりあげている。
聞こえるのはひっきりなしに上がるオレの甲高い泣き声と、時折後ろで小さく唾を飲み込む音。
背中に伝わる体温はいつもと同じなのに、
いつもよりも少し荒っぽい手の動きと、いつもより少し大人っぽいにおいのせいで、
オレに触れているのは獄寺君じゃないんじゃないかって錯覚する。
「獄寺君・・・」
そんなことないのに、何だか急に不安になってきて弱々しく獄寺君の名前を呼ぶ。
呼びかけに返事はなく、代わりにうなじを舐め上げられた。
頭の先から腰骨まで駆け抜ける快感と一緒に、不安も強くなってくる。
「獄寺君、怖いっ・・・!」
「・・・10代目?」
思わず不安を口にすると、やっと声を聞かせてくれて、手の動きもゆっくりとしたものに変わる。
そのことにほっと一息ついてもう一度口を開く。
「獄寺君の顔が見えないと、声が聞こえないと、すごい不安になるんだ」
だから向かい合わせにして欲しいと頼むつもりだったのに、
獄寺君はオレの胸に当てていた手をあごに移動させて、オレの顔を上向かせる。
「10代目、目を開けてみてください」
言われるまま目を開けると、オレの目の前には大きな鏡。
洗面台に倒れこむ自分の姿と、オレに覆いかぶさる獄寺君の姿が見えた。
「10代目に触れているのは、ちゃんとオレでしょう?」
確かに、そうだけど。
獄寺君にかぶさられた自分、その顔までがしっかり見えて、その姿にますます羞恥心が募った。
絶対に恥ずかしいって分かってたから、見ないようにしていたのに。
自分の乱れた姿なんて見なくていい。
ただ、獄寺君の姿が認められればいいのに。
「オレも、10代目の顔が見えないと寂しいですし」
「ちがっあ・・・!」
鏡から目を逸らしたくて下を向こうとしても、獄寺君の手の力が強くて顔が動かせない。
横に動かそうとしても同じだった。
あごが痛くなるほど力を入れられているわけではないのに、少しも動かない。
マフィア特有の拘束の仕方なのか、それとも単にオレの力が抜けているせいなのか、どちらかは分からなかったけれど、
そんなことを考えているうちにもオレを刺激する獄寺君の手の動きはまた早くなり、オレの口からはまた高い声が漏れだした。
「そのかわいい声、この口から出てるんですよ」
あごを支えていた獄寺君の指が伸びて、唇をなぞる。
指はそのまま唇と歯の隙間を縫って口内に入り舌をいじる。
唾液をかき混ぜるように動かすせいで、ぴちゃぴちゃと恥ずかしい音が響いた。
「っふ、んっ・・・う、んぅ」
指を含んでいるため、こもったような声が漏れる。
それが嫌で、舌を使って指を押し出すようにすると、
指に舌を絡め取られ、口の中を動き回られ、余計に苦しさを感じる。
溢れた唾液を飲み込むことも拭うことも出来ずにただはしたなく流している姿を見ていたくなくて、硬く目を閉じた。
ゆっくりと獄寺君の指が口の中から出ていって、最後まで残っていた指先が唾液を唇に塗りつける。
ぬるぬるとした感触に眉を寄せてうっすらと目を開けると、
淡い照明にぬらぬらと光った唇が、自分のものだとは思いたくないほどいやらしく映る。
「っ!獄寺君、もう、離してよ・・・!」
それ以上自分の顔を見ていたくなくて懇願しても、獄寺君はにっこり笑うだけで手の力を緩めない。
それどころか恥ずかしい言葉でもってオレをいたたまれない気持ちにさせる。
「10代目」
呼びかけられた声に、鏡越しに獄寺君の顔を見る。
「このままご自分がイクときの顔を見られますか?」
「なっ・・・!?」
何だって?何言ってんの!?
言いたいことはぐるぐると頭の中でうずまいて、あまりの驚きで口に出ることはなかった。
「ご自分の感じているときの顔、ご覧になられたことないでしょう?」
固定されている顔を小さくうなずかせた。
もちろんだ。そんなことあるわけがない。
こんな鏡のあるところでやったことはないし、
自分でするときだって自分の部屋で目をつぶってやるんだから。
「10代目のイク時の顔、すごく綺麗なんですよ」
そんなことを言って、またやんわりと力をこめられる。
さっきだって全然顔が動かせなかったのに、さらに動けなくなって。
恥ずかしくて、見たくなくて、ぎゅう、と目をつぶった。
目の前は照明のせいでほんのり明るく、さっき見た鏡越しの獄寺君の視線を思い出してぞくりとする。
最中はオレが目をつぶっていたり、涙でぼやけていて見えないけれど、始まりに見せる飢えた目だ。
オレを動けないようにしてしまう視線。
オレのことをじっくりと見つめて、あますところなく、体の内側まで見られてしまうような。
オレの仕草を何一つ見落とすことなく全部見つめられるという感覚は、強烈な羞恥心しかもたらさない。
そんな異様な感覚の中で、くちゅり、と音が響きだす。
下の方から聞こえてくるそれは、紛れもなく俺の性器が擦られることで響く音だ。
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