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論評とは名ばかりで、わたしの電子日記とリンクしてるただのたわごとです。
 15      佐渡裕「21世紀の第九」
「もっと喜びにあふれた歌を!」
 12月28日、佐渡裕「21世紀の第九」@シンフォニーホールに行ってきた。
 さすがに佐渡裕氏による「第九」というだけあって、客席は満員だった。その中には子どももけっこういた。佐渡裕氏といえば、「1万人の第九@大阪城ホール」が有名だが、これまでの経験による私見では、大阪城ホールは音響が悪い。『あんなところでクラシック?』という勝手な思い込みがあって、今回はなんとなくこっちを選んでみた。演奏は大阪センチュリー交響楽団、合唱は京都バッハ・アカデミー合唱団、浜田理恵氏(ソプラノ)、小山由美氏(メゾ・ソプラノ)、佐野成宏氏(テノール)、キュウ・ウォン・ハン氏(バリトン)。
 19時、満員の聴衆が見つめる中、佐渡裕氏が登場。ん?なんだろうこの違和感は…。なんか…、痩せた?背は高いけど、もっと肉がついてて「大男」なイメージがあったのに、なぜかスラッとして見える。うん、間違いなく痩せた気がする。指揮ってハンパなくスタミナ使いそうだからな…。数々の海外公演に加えて、先日、兵庫県立芸術文化センターの芸術監督にも就任されたこともあり、多忙きわまりない日々を送られているに違いない。ちょっと心配になったが、いざ本番が始まってみると、そんな疲労などはいっさい感じさせないパワフルな指揮で魅せてくれた。
 力強いタクトの振りと、軽やかなジャンプ。佐渡氏は指揮台を置かずに全身で楽団と向き合っていた。演奏がとくによかったのは第3楽章。せつない旋律に美しく奏でるクラのかけあいがよかった。でもオーボエはもうちょっと古典に合う音にしてほしかった。そしていよいよ第4楽章。実際に生で本格的な合唱を聴くのは初めてだったので、ほんとうに感動した。オケを聴きに行くとだいたい毎回感動はするけど、今回の合唱はそのいつもの感動とはまた違っていた。いつもはオケの奏でる美しい旋律そのものや、音に感動しているのだろうけど、この合唱というものは、旋律とか人間の声の質にではなく、人間のちからに感動する。ほんとうに人間の声ってすごい。ほかのどの楽器よりもダイレクトにこころに訴えてくる。教会のゴスペルを聴く感動に似ているかもしれない。ベートーヴェンがどれだけ人間というものに畏敬の念を抱いていたかがちょっとわかった気がした。人間に敬意を抱いた音楽だからこそ、200年経ったいまも、こうして素晴らしい演奏となって継がれているのかな。ということで、「第九」には音響とかあんまり関係無いみたい。要は人間のちからだ。それが1万人っていうんだから、きっとすごいに違いない。来年は大阪城へ行こう!
 そして思った。毎朝、満員電車の中で堂々と新聞広げてるおっさんや、わりこみしてくるおばさん、地べたに座り込む学生たち。朝っぱらからイライラしてしかめっ面になりながら「たのむし消えて!」と心の中で念じていたが、そういうわたしって全然人間に対して敬意が抱けていない。もちろん迷惑行為をだから容認されるべきではないだろう。でも、そういう嫌なとこばかりを見てはイライラして、人間を嫌えば嫌うほど、ベートーヴェンのこころからは離れていく気がした。わたしももうちょっと人間を好きになる努力をしよう…。今年最後の演奏会で、そんなことをふと思った。ありがとう佐渡裕、ありがとうベートーヴェン。
 
 
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