1:基本的な掛かり釣りの場合のアンカーの打ち方
掛かり釣りのアンカーの打ち方は、たとえば一昼夜船を停泊させる場合のアンカーリングとは異なります。釣りの場合は、しばらく釣りをした後、場所を移動するケースが多く、少しでも船が流されたらすぐに気付くように船をアンカーリングすることが必要となります。
潮流
@
A
B
@船を潮流の方向に向け、わずかに海底をひきずる程度までアンカーを下ろし、微速で後進してロープを出します。
A途中、アンカーが適所の海底に少し食い込むようにロープを張り、効きぐあいを確認します。
Bアンカーの効きを確認してロープをクリートします。ロープの効きを確認する際は少し後進すると判断しやすいです。
実際にアンカーを打つ場合、基本的には潮上側に打ちます。潮流の方向と風の方向が異なり、船が流されることに対して風の影響が強い場合などは、しばらく船を止めて、流される方向を確認してから船を移動してアンカーを打つという方法がありますが、風の影響が強い場合で船を一箇所に固定したいならば潮上側に1本、風上側に1本と、2本のアンカーを打たないとポイントの上に船を維持することは困難です。
※アンカーによる掛かり釣りが出来ないケース・・・
・風が強く、波浪が高い時。
・潮流が激しい時。
・風下、潮下に障害物や浅瀬が間近にある場所。
・流し釣り、他の魚労中の船舶の邪魔になる場所。
・アンカーリングしている他のボートの潮下にアンカーリングするのもルール違反です。
@
A
B
2:掛かり釣りに使用するアンカー
アンカーには、外国製品、日本製品とさまざまな種類があり、さらには工夫を凝らしたものなども含めると非常に多くのものが出回っています。それぞれのアンカーにはいろいろな特性があり、また必ず長所や短所があるので実際に選ぶ場合にはそれぞれの違いを理解して適切なものを選ぶことが最も良い方法です。しかし、すべてにオールマイティーで、船にも収納しやすく、さらに掛かり釣りにも適したアンカーとなるとなかなか無いのが現状です。釣り用アンカー選びに正解はないのです。
ここでは一般的使用されているアンカーを紹介したいと思います。※船の適合サイズはあくまで目安です。
セイフティーアンカー
(鉄亜鉛メッキ)
二爪錨アンカー
ダンフォース型アンカー(左)
ブリタニーアンカー(右)
ダンフォースタイプの国産版。底質が砂泥地に適したアンカーです。亜鉛メッキ鋼で加工しやすく量産に向いているので日本では普及している。海底に埋まって把駐力を発揮するためアンカーロードの角度が重要で最も最良とされているのが30°〜35°で、チェーンは必需品です。
昔から日本の漁師が使っていた万能型で砂泥地から岩礁帯までいろいろな底質に効きめがあります。底質によってストックを交換(岩礁帯ではエンビ管棒、砂泥地ではステンレスパイプ入りのエンビ管棒、もしくは鉄棒)することが出来ます。岩場ではフリークが引っ掛かり、砂泥地ではフルークの先端が海底に深く入り込みますが、把駐力ではブレードのあるものに及ばないので、やや大きめが必要です。収納するときはストックを外せるのでスペースはそれほど取りません。私の船では現在はこのタイプを使用しています。
シャンク
↓
フルーク
(爪)↓
↑
ストックが、
エンビ管棒
砂泥地用のアンカーで、コンパクトかつ把駐力が大きいものの代表格なのがダンフォース型ですが、欧米では釣りに使うことは稀です。
ブリタニーアンカーもブレードが海底を掻いて把駐力を高めるタイプでフランス製の砂泥地用です。よりコンパクトにするために、回転止めのストックを排除したのが特徴で、同じサイズのダンフォースに比べて、ブレードの面積は約1.4倍あります。アンカーを海底と平行に寝かせて引っ張ることが条件となるため(右上の写真)チェーンを付けることが必要です。
※『把駐力』・・・海底の砂や泥を掻いて船を固定する力
フルーク
(ブレード)
→
↑
クラウン
←シャンク
↑
ストック
米国産では極めて珍しい岩礁用ですが、小型フィッシングボードに適したアンカーで、砂泥地から岩礁地帯までいろいろな底質に使用できます。特に岩礁地帯での根掛かりの際に有効で、フリークが伸びることで抜錨することが出来ます。このタイプのアンカーはチェーンがなくても海底にくい込むことができますが、岩礁などによるロープの擦れに注意が必要です。
フォールディングアンカー
ストックアンカー
ハイテンションアンカー
底質を選ばない万能型。伝統的なグラプネルというフィッシャーマンタイプのアンカーを収納性を高めるために折りたたみ式にしたもの。スペースを取らないのでスモールボート、もしくは2丁めのサブアンカーとしても適している。フリークが根掛かりしてもひっくり返って抜錨できます。
最近流行のタイプ。フルークの先端にあるブレードが砂泥を掻き、把駐力を発揮する。収納を考え、ほとんどのタイプでストックを外せるようになっている。
4本のフリークにブレードがある万能型。根掛かりした場合にロープを緩めるとセンターポールに間をリングが動いて反転するため抜錨しやすくなっている。
3:アンカーリングの実際
はじめに:アンカーリングのメリット
アンカーリングの目的はボートを固定することです。ボートを固定する一番のメリットはピンポイントで狙った魚を徹底的に狙えることです。海はとても広いですが、根魚にしろ、回遊魚にしろ、本当によいポイントは限られています。だから好ポイントが分かっていれば、アンカーリングが有利なことは間違いありません。たしかに遊魚船のように大勢で大量の寄せエサを撒けば、いくらか魚は寄るかもしれませんが、マイボートのようにサオ数が少なければボートを固定したほうが圧倒的に有利なのです。また風にボートを立てられることも大きなメリットです。ボートは前に進むように設計されているので(当たり前ですが・・・)バウから波を受けなければ不快な揺れを抑えられます。また黒球を掲げて(他船に自船停泊している事を示す)船長が釣りに専念できるのもメリットかもしれませんね。もちろん走錨の確認は常にしなければなりませんが・・・
@魚から考える・・・
理想的なボートポジションとはどこか?思い通りにボートを固定できても、その場所が的外れだったら結果は明らかです。
ベストポジションは魚の居場所にエサ(仕掛け)を運べるところです。アンカーリングをすると、仕掛けはふつう潮下に流されます。したがってまず、ボートポジションはポイントの潮上が原則です。次にどれほど潮上に位置すればよいかという『程度』が問題になってきます。仕掛けをどう操るかによって魚の食いに大きな影響を及ぼすからです。重いオモリでボートの真下周辺を縦に釣るのか、それとも仕掛けを潮に乗せて遠くのポイントを横に狙うのか、または広範囲で探るのか・・・。これらは魚によっても、状況によっても、仕掛けによっても大きく異なります。要は、いかに潮を利用するかが、仕掛けを操りアンカーリングの釣りを成功させるカギなのです。まず魚からアプローチを考え、そしてボートポジションを決める。この視点がなにより大事になるのです。
Aボートのくせ・・・
アンカーリングの際に、ボートの動きに大きく影響するのは潮と風です。ボートは潮や風に流され、アンカーにぶら下がるように留まります。どちらの抵抗をどれだけ受けるかでボートポジションが決まるわけですが、これはボートによってかなり異なります。船の形状(大きさ、形、船底の形状など)によって、同じところで同じようにアンカーを打っても全然違う位置に留まるのが普通です。
潮の抵抗は、海に入った部分の形状によります。喫水が深く、キール(船体の最下部中央にあって船を縦通する縦強力構成材)があったり、ハル(船殻部分、一般にハルに*デッキが取り付けられて船体が完成する
)のVの角度がきついボートは抵抗を受けやすく、逆に最近のプレジャーボートにありがちな、喫水が浅く、ハルがフラットなボートはあまり影響を受けません。潮の抵抗を受けやすいボートの方が潮に立とうとする力が強いです。
一方、風の抵抗は海面から上の部分を見て大体わかるのではないでしょうか?
問題は自分のボートにおけるこれらのバランスです。自分の船が潮によって、風によってどれくらい流されるのか?まずそれを知ることがスマートなアンカーリングへの第一歩です。
B潮と風
アンカーによる掛かり釣りは、海の状況をしっかり把握してアンカーを打たないと何回もやり直したり、ポイントから大きくはずれてしまったりします。掛け方を十分に理解して、自船に合ったアンカーによる掛かり釣りを経験していくことが釣果を上げる最大のコツです。
ボートポジションは、潮と風の合力とアンカーロープの長さで決まります。
風は自船上の旗などから判断し、潮は近くにブイやアンカーリングをしている多船があれば、それらに当たる水の動きやアンカーロープの向きなどで見当をつけます。これらがないときは、めんどくさいですが、一度アンカーリングをして仕掛けを入れてみるのが一番確実です。自分でブイを投入して把握するのも有効な手段です。ポイントとボートポジションのイメージがはっきりしたところで、狙った場所にボートを固定させます。
また釣りにおいてはまず潮を基準にします。風よりも潮の方が、向き・強さともにムラが少ないからです。また、風波が不快でない限り、潮に船を立てた方がサオを出しやすく、仕掛けをコントロールしやすいです。その上で風波による揺れや、左右の振れを抑えるなど、風に対応していきます。ただ、小さいボートでは風波に対して横を向くと危険度が増すので注意が必要です。
次にアンカーロープについてですが、アンカーロープは一般的に短いほど手返しが速く、風があっても振られにくいです。短くてすむならそれにこしたことはないのですが、長さに遊びがない分乗り心地が悪く、アンカーが抜けやすいなどのデメリットもあります。これらの兼ね合いからすると、やはり一般的な目安は水深の約3倍ではないでしょうか。また、後述しますが、ロープの長さによってボートポジションをコントロールしたり、振れを利用して広範囲に探る方法もあります。アンカーロープをバウからでなく、サイドやスターンから出して揺れや振れを抑える方法もあります。
私の船は備え付けていませんが、スパンカーの利用も効果的です。スパンカーは風の抵抗を増すことでボートの挙動を安定させられます。アンカーリングと併用すると左右の振れを抑えられ、位置も調整しやすいです。流し釣りでは構造的にあまり効果が期待できないようなプレジャーボートでも、アンカーと併用した場合はどんなボートでも効果てきめんです。
ピンポイントで船を固定させたいならばアンカーを2丁で対応するという方法もありますが、機動性を考えると出来れば1丁ですませたいです。2丁めを出す際はアンカーロープに仕掛けが絡まないように配慮が必要です。
アンカーリングのシステムは実に様々で、公式はありません。海の状況に合わせて臨機応変に対応していくべきものなのです。
<アンカーリングパターン集>
@無風で潮だけある場合
潮
アンカーロープの長さでボートポジションを調整できる。
A潮と風の向きが同じ場合
根
根
潮
風
根
根
風の強さや向きにムラがあるためボートは風によって振られる。それを利用して広範囲を探ることもできる。ロープが長いほど振られる範囲は広くなる。
B潮と風の角度が小さい場合
スパンカーを使うと船は振られにくい。
潮
風
根
風によって船が振られる。
C潮よりも風の影響が大きい場合
風
潮
ボートを風に立たせるとローリングを抑えられる。風が強ければ位置は比較的安定する。
根
ある広い根をぶっこみ釣法で釣る場合にはどこにボートを留めるか・・・?
もちろん潮が当たる側になるのですが、風向きをある方向に限った場合は時間帯によって風上側か風下側かに絞り込まれます。
これから潮が強くなってくる時間帯には根の風下側にボートを固定するとよいです。潮が弱いうちは風の影響を強く受けてボートが振られ、風下側を釣ることになり、しだいに潮が強くなってくると風の影響が減り、より潮の向きと同じ、つまり風上側にボートの位置が移動してくるのです。この方法を取ればアンカーの位置を変えなくても根を広く探れます。
逆に潮がだんだん緩くなってくる時間帯には根の風上側を釣るようにアンカーリングするとよいのです。また、ボートはポイントのかなり潮上に留めたほうが無難です。アンカーロープを延ばして調整できるのはもちろん、とっくにぶっこみ釣法では仕掛けを投げる距離でも調整できるからです。
広い根
潮
風
※船首を潮上側に掛けることが基本である理由は、船の船首方向から流れを受けたほうが、圧流抵抗が小さく揺れが少なく安定し、さらに仕掛けは潮下に流れるので船尾両舷からの釣りがしやすいからです。
<潮が強くなる時間帯のアンカーリング>
↑
ブレード
<私の所有艇のアンカーシステム>
二爪式錨アンカー10kgを使用。基本的には砂地用であるが岩場にも十分対応します。狙う水深が浅いのでウインチがあれば10kgアンカーでも問題ありません。
シャンクの先は、コードなどを束ねる“インシュロック”でチェーンを固定して使用します。インシュロックは通常の上げ降ろしでは切れないが、根掛かりしたときには切れる本数(目安は5本)を使います。
アンカーが海底にとどく範囲で、一本アンカーまたは、2本アンカーで掛かり釣りをします・・・