よもやま話
よもやま話
このページは、私が思っている事や考えている事をテーマを定めずに書いています。
邦楽に関する事を書くつもりですが、何事にも例外は付き物です。
何でもありの雑感コーナーです。
25 私の篠笛
 篠笛で仕事をするには、30本以上の音程の異なる笛が必要になる。以前にも書いたが、これだけないとあらゆる音域に対応できない。これだけ用意しても、窮屈な吹き方を強いられることがよくある。
 始めお稽古に通いだした頃は、1本しか持っていなかった。練習するには、それで充分だった。師匠の仕事について行くうちに、だんだんと欲しくなってきて、ついに17本のセットを買った。これは半音の2分の1刻みのもの(調子は3本調子から11本調子)で、素人の私には充分すぎた。というより、まだまだ使う機会がなかった。
 プロになってから、不足分を徐々に買い足していき、ようやく半音の4分の1刻みを持てるようになった。長い道のりであった。本来は新たに33本くらいのセットを注文する方が総合的なバランスが取れて良いのだが、なにしろ資金がなかった。使う頻度の高い音域から順に、少しずつ買い揃えていった。
 篠笛の良いところは、プロ用とか素人用、練習用といった区別がないことである。練習で使うのも舞台で使うのも全く同じ笛。これが他の楽器と決定的に違う点である。洋楽器はもちろん、他の和楽器でもこういうことは珍しい。今からお稽古を始める人も、我々と同じものを使う。
24 観劇の思い出
 学生時代はよく歌舞伎を見に行った。中座、新歌舞伎座、南座、歌舞伎座(東京)とあちこちへ飛び回った。時間は充分あるので、あとはお金だけ。家庭教師のアルバイトをしていたので、その収入で劇場へ行った。
 入るのはいつも3階席の後方。1階席と比べると3〜4倍の値段差があるので、3階席なら同じ芝居を3回見ることができる。気に入ったものは、1週間くらい続けて通ったこともあった。
 辛いのは南座。客席の勾配がきつくて、3階席からだと見下ろす角度が急である。役者さんの頭のてっぺんが見えるような感じ。鳥になったような気分。
 それと、3階席だと花道の出入りが全く見えない。1階席から拍手が起こっても、3階席では想像力を働かせるしかない。安い席の辛いところだ。セリ上がりもつまらない。突然舞台に現れる意外性が面白いのに、3階席から見下ろしていると、舞台にポッカリと穴が開いているのが見えてしまう。セリ上がってくる様子が丸見えなので、とても興ざめだ。
 面白くない芝居では、よく居眠りをした。昼の部、夜の部ともそれぞれ4時間ずつくらいあるので、見る方も疲れる。顔見世などで一流の役者ばかり揃っても、やっぱり疲れる。劇場で居眠りするのは、電車の座席で寝るのと同じくらい気持ちがいい。歌舞伎をBGMにして、贅沢な睡眠。
 劇場で初めて寝たのは、高校1年生の時。学校行事として神戸文化ホールへ「歌舞伎鑑賞教室」を見に行き、グッスリと眠った。あとで感想文も書けないほど、何も覚えていない。ただ寝ていただけ。今年の夏、その「歌舞伎鑑賞教室」の仕事をいただいて働いた。感慨深いものがあった。
23 舞台の上から
 舞台に出ていて客席を見ていると、いろいろと面白いことがある。長唄の演奏会では、唄本を持って節の勉強をしながら聞いている人を見かける。
 舞踊会では、自分の知人が出演して大きな声でかけ声をかけたり、盛大な拍手をしたり、とても楽しそうな人がいる。あるいはプログラムと我々演奏者を見比べている人。最前列で大きな口を開けて寝ている人。弁当を食べてばかりで、舞台を見ていない人。(ロビーでゆっくり食べればいいのに) 
 ヨソ行きの着物を着て友達に冷やかされている人。ケバケバしい洋服を着ている人。Tシャツにジーパンの人。髪の毛を染めて、大きなピアスをぶらさげている人。様々である。
 困るのは、ペチャクチャと話をしてうるさい人。マナー違反だ。携帯電話を鳴らすのも非常識。場所をわきまえてほしい。
 今までで最高に面白かったのは、最前列でハミガキをしていた女性。手提げカバンからハブラシを取り出して、いきなり磨きだした。初めは何をしているのかわからなかったが、ハミガキだとわかったとたん、吹き出しそうになって、笑いをこらえるのに苦労した。笛を吹いているときでなくて良かった。世の中には変わった人がいるものだ。
22 汗 ・ 咳 ・ かゆみ
 出囃子の時、この3つがなかなか辛い。
 舞台の上はかなり暑い。夏場は楽屋や客席には冷房が入るが、舞台は関係ない。客席の冷気が流れてくるはずなのだが、涼しいと思ったことがない。それ以上に照明がキツイ。冬場は楽屋と客席に暖房が入るので、舞台は猛暑。まるでサウナ風呂状態。汗がダラダラと流れる。私は顔にはあまり汗が出ないのでまだマシだが、顔に吹き出す人はかなり辛い。手拭いで拭けばよいのだが、あまり何度もゴソゴソできない。
 風邪気味のときの咳も辛い。これは騒音になるので、口を開けずに噛み殺す。口の中で音を殺してしまう。我慢できないときは、手拭いをあてて音を消すが、かなり苦労する。だいたい風邪をひくこと自体恥ずかしいlことだ。自己管理ができていない。しかも他の人にうつしでもしたら、迷惑この上ない。
 3つ目は、かゆみ。これがくせ者だ。舞台でじっとしていると、時々顔が無性にかゆくなることがある。緊張からか、暑さのせいか、原因不明のかゆみが襲ってくる。これは絶対に我慢するしかない。私の美学として、絶対に顔をかいたりしない。これをやると行儀が悪い。ひたすら我慢して、通り過ぎるのを待つ。
 以上3つが舞台での敵である。舞台上では、何があっても行儀良くしなければならない。演奏や踊りの邪魔になることをしてはダメ。観客の気持ちや視線が踊りからそれてもダメ。辛くても我慢、我慢。
21 セリ ・ スッポン
 前回に続いて、舞台装置の話。舞台に数ヵ所、床を上げ下ろしできる装置があり、これを「セリ」と言う。舞台の間口いっぱいを上げ下ろしする大きなものもあれば、人間1人分の小さな面積のものもある。この装置の上にあるものは、人間であろうと大道具であろうとすべて、歩いたり持ち運ぶことなしに、舞台上に現わしたり消したりできる。舞台と奈落を上下するエレベーターだ。
< この「セリ」による演出効果は大きい。観客の意表をついて、現れたり、姿を消すことができる。「大ゼリ」を使うと、何もなかった舞台に突然建物が現れたりする。
 この「セリ」と「花道」をセットにしたのが、「スッポン」である。花道の真ん中よりも舞台よりの所に「セリ」の装置を作ってある。これを使えば、客席の中に突然人間が現れることになる。これが始めて使われたときは、観客はどんなに驚いたことだろうか。この名前はもちろん動物のスッポンからきている。
 私も舞台の「セリ」には何度か乗ったことがある。なかなか気持ちのいいものだ。地面の下から湧き出るように、突然舞台に現れるのだから。廻り舞台で回りながら、セリ上がってくるというスペシャルバージョンの経験もある。
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