このコーナーは曲に対する考えや思いを綴っています。
独断に基づいており、客観性や学術性は全くありません。
専門的な言葉が出てきますが、あまり解説していません。
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10 長唄 角兵衛
 同名の曲が常磐津にもある。これは初演のときに「掛け合い」として、同時に作曲されたため。その後それぞれが独自曲として手を加えていき、現在に至っている。今では演奏会は長唄、舞踊の地には常磐津となっている。長唄は節回しや三味線の手がスマートに仕上げられているため、演奏会に向いているのだろう。それに対して常磐津は、良い意味での「泥臭さ」が感じられ、セリフの部分も味わいがあるので舞踊に合っているのだと思う。
 とりたててストーリー性はなく、江戸の街中で出会った角兵衛獅子と鳥追いが、かわるがわる身の上話をし合うという内容。
 前半からクドキにかけては、唄の節回しが良く面白い。「籬のすががき」からガラッとハデになり、廓の描写。お決まりの渡り拍子。「柴田五万石〜」は馬子唄。篠笛で「田舎笛」を吹く。田舎の素朴な雰囲気を吹くのだが、これは「空笛」と同じで大まかなテンプレートはあるが、アレンジは自由。唄や三味線の味を壊さぬことが大切。唄の聞かせ所でもあるので、気を遣う。あとはずっと鳴り物が入り、軽妙で華やかな曲調が続く。三味線の手がノリも良く、聞いていて退屈しない。
清元 お祭り
 清元には、お祭りを扱った曲がいくつかある。「申酉」、「神田祭」、「三社祭」など。今回は「申酉」について。屋台囃子で幕が開くと、舞台は江戸のお祭り風情。清元の唄と鳴り物の屋台正殿が心地良く響く。江戸の粋が感じられる。
 少しお座敷の描写があって、サワギという鳴り物が入ってくる。太鼓が軽快にリズムを刻み、それに合わせてドラブチを打つ。チャンチャンという金属音のリズムが耳に心地良い。サワギには2種類あり、太鼓はどちらにも入るのだが、他の楽器が違う。1つは、上記の様にドラブチを打つもの。もう1つは、小鼓と大鼓で、リズムを打つもの。大・小鼓が入る方が上等のお座敷だと聞いたことがある。鳴り物の多い方が、芸者さんの人数も多くて上等。ドラブチを打つのは、酔った客がお箸でお銚子などの食器類を叩く音を描写しているので、安物のお座敷らしい。細かいことを考えたものだ。
 このあと立方と若い衆のからみなどがあって、賑やかな終盤へ。鳴り物もいろいろな種類の祭囃子を演奏して曲を盛り上げる。清元の粋さとよく合う。
 いちいち歌詞を聞かなくても、楽しい雰囲気を感じられる曲だ。立方は男なら鳶頭、女なら芸者とどちらでも踊ることができる。
長唄 静と知盛
 「舟弁慶」のダイジェスト版。お芝居のハイライトシーンだけを採ってきたもの。
 始め、謡い掛かりから静の舞となり、能の雰囲気を醸し出す。そのあと一転して「糺すの森〜」の「都名所」の踊りになり、華やかになごむ。ここの篠笛はとても好きなメロディー。華やかさと上品さがただよう。
 静が義経との別れを惜しんだ後、「送り笛」で花道を入って行くのだが、この能管は非常に難しい。悲しみを内に抑えた心情を描写しなければならない。しかも静の品格や柔らかいタッチが必要。うまく吹けたことがない。いつも反省するところ。
 後半はガラッと変わって、知盛の亡霊の登場。「早笛」の囃子で現れるのだが、ここは最高にシビレル。特に太鼓の迫力が凄い。亡霊の勢いそのもの。
 息詰まるような、亡霊と義経の対決の場面があって、どんどん盛り上がる。囃子方の気迫溢れる演奏が見もの。
 最後は、義経に打ち破れた亡霊が花道を引き返して行く。これは、海中に沈んでいくということ。知盛の亡霊が花道七三に立つと、幕が閉まる。すぐに、花道付け際に笛方と太鼓方が登場して座る。いよいよ幕外の始まり。舞台は幕が閉まり、花道のところに主役、笛、太鼓の3人だけ。見得を切るのに合わせてツケが入り、笛と太鼓だけで「早笛」の演奏。迫力溢れる演奏に追われるように、亡霊は花道を入って行く。
 どんな言葉を使っても、この迫力と緊迫感は表現できない。どうか舞台で見ていただきたい。(振り付けによっては、「幕外」がないこともある。)
長唄 吉原雀
 非常にリズムの良い曲調で、小鼓、大鼓が活躍する。節回しも心地良く、緩急を効果的に使っている。
 廓のことを織り込んだ歌詞が面白い。私が好きなのは、「女郎の誠と玉子の四角、あれば晦日(みそか)に月が出る」の部分。何となくバカらしくて、例え方も面白い。落語の中にも同じ主旨の言葉があるが、もっとストレートで、「騙します、という看板を上げている」となる。
 こういう言葉遊びの部分が好きなのだが、堅苦しいのはかなわない。「〜和歌集」に本歌があるとか、「〜物語」をふまえているとかいうのは苦手だ。単純な言葉のシャレや、奇抜な言い回しなどが、わかりやすくて良い。それが曲の旋律や流れにピタッとはまっていると感心してしまう。作詞家の遊び心と作曲家のセンスがバランス良く結びつかないと、こうはいかない。
 全編たいした内容はないが、歌詞とリズムで楽しめる曲である。笛方にとっては、非常にヒマな曲。始めに能管が少しと、終わり間際に篠笛が少しあるだけ。「文のたより〜」で始まる篠笛は、女性の気持ちを唄った、きれいでスマートな曲調。あとは舞台の上で曲のリズムを楽しんでいるのである。
常磐津 釣  女
 文楽でよく上演される。もちろん文楽では義太夫。日本舞踊では常磐津の地でやることが多い。これは、誰にでもわかる単純明快なストーリーで、大笑いできる作品。
 簡単に解説すると、ともに独身の大名と従者がいる。大名が妻をほしくなり、戎神社にお参りに行く。すると神のお告げがあり、釣り竿を振り回していると、美人のお姫様が引っかかる。恵比寿様〜釣り竿という発想が単純で面白い。
 それを見ていた従者が自分も真似をして釣り竿を振り回すのだが、今度は強烈にブサイクな女性が引っかかってくる、という筋書き。発想といい、筋書きといい実に単純でわかりやすい。
 従者が女性の顔を見た時の驚きのセリフがいい。「ワゴリョは鬼か化け物か。消えてなくなれ。消えてなくなれ。」客席は大爆笑となる。釣り上げた時は、頭から薄絹をかぶっているのでわからない。喜び浮かれて、三三九度の盃となったところで、始めて顔を見せるので、その落差が増幅される。踊りの化粧も、それはそれはひどいものである。「おかめ」を数倍醜くしたような化粧をする。でもキタナイのではなく、オモシロイ顔。いつ見ても笑ってしまう。
 こんなにバカバカしくて面白い作品だが、最近セクハラに抵触するとの噂を聞いた。女性の容姿をネタにして、笑ってはいけないらしい。おそらく放送関係はダメだろう。こんなに面白いのに、もったいない。
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