このコーナーは曲に対する考えや思いを綴っています。
独断に基づいており、客観性や学術性は全くありません。
専門的な言葉が出てきますが、あまり解説していません。
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25 清元 玉  兎
 初心者が見てもわかりやすい、楽しい踊り。置き唄があって、月の大道具、あるいは月のシルエットの中からウサギが飛び出す。ウサギは杵を持っていて、楽しそうに餅つきをする。おとぎ話の世界。
 そのあと今度は、「かちかち山」の話になる。ウサギと狸の昔話を清元の節で聞けるのだから、何とも粋なものだ。「後から火打ちで、かっちかち」とか「アツツ、アツツ」など、歌詞もわかりやすい。こういう趣向があるということは、清元自体が昔はもっともっと庶民に馴染みのあったものだったと言える。歌舞伎とか日本舞踊というものが、今よりも生活に近いところにあったのだろう。
 後半は、「お月様〜」で始まる踊り地。ここは田舎笛を吹く。義太夫の「団子売り」と歌詞、節ともにそっくりで、心地良い流れがある。緩急の変化が踊りを乗せる。旋律が心地良いのでそれに付いてしまいがちだが、できればシンクロしながら篠笛の存在をアピールしたいところ。ただし、唄の邪魔になってはいけない。こういうところで、センスの有る無しがわかってしまう。ウ〜ン、難しい。
24 長唄 勧進帳
 長唄というよりも、歌舞伎の代表作として有名。これはもっともなことで、この曲は元来歌舞伎舞踊として作られたもの。そのため役者のセリフが入ってこそ筋が通るようになっており、長唄だけでは、ト書きを聞くようなもので、内容が不十分である。しかし、歌舞伎公演であまりにも有名なため、長唄演奏会でもポピュラーな曲になっている。ストーリーは衆知であるとの前提か。
 内容は、もちろん能「安宅」の焼き直し。謡掛かりで始まり、すぐに「寄せの合方」。私はこの合方が大好きで、いつもカッコイイと思いながら聞いている。歌舞伎だとこの合方が終わると、義経一行の登場となる。
 義経の変装がバレかかったときの唄は、歌舞伎さながらの迫力で、緊張感がみなぎる。弁慶が涙を流すところもいいところだが、ダレないように要注意。
 このあと「延年の舞」となり、囃子方が能の雰囲気を出す。この舞は、中世の僧侶が演じた舞らしい。そしていよいよ「滝流し」。三味線、小鼓、大皷の聞かせ所。三味線と小鼓は大活躍して、大変目立つのだが、私は秘かに大皷が気に入っている。大皷の掛け声がとてもいい雰囲気を出していると思う。
 長唄自体よりも、後半の囃子だけでも充分に楽しめる、カッコイイ曲だ。
23 常磐津 京人形
 彫物師の名人、左甚五郎の伝説。歌舞伎では、常磐津と長唄の掛け合いで上演する。
 甚五郎が廓で見染めた梅ヶ枝太夫の人形を作る。その人形を眺めながら酒を飲んでいると、人形が動き出して一緒に踊る、というもの。人形役の踊り手の技量が見もの。
 初めは、魂を込めて彫った人形が動き出すことで、観客が沸く。しかしこれからが、この曲の面白いところ。人形には甚五郎の魂が宿っているので、姿は太夫なのに動きが男性の動きになる。そこで甚五郎は、偶然道で拾った太夫の手鏡を人形の懐へ差し入れる。すると人形に太夫の魂が入り、女性の動きに変わる。懐から鏡を出すと男性の動きに戻り、また入れると女性の動き。この切り替えになかなかの技量が必要。しかも、基本的には人形であるという少々のぎこちなさも表現しなければならない。
 名人左甚五郎を題材にして、とてもよくできた曲だと思う。観客の興味を惹いた上にさらに展開させていく面白みが見事だ。
22 長唄 羽  衣
 能楽の「羽衣」を焼き直したもの。常磐津にも「松廼羽衣」という同趣向の曲があり、舞踊会ではこちらの方がポピュラー。しかし長唄の歌詞の方がストーリーがわかりやすいので、長唄を取り上げる。
 天女が三保の松原の松の枝に羽衣を掛けていると、それを漁師が見つけて家の宝物にしようとする。天女は、羽衣がないと空を飛ぶことができず天に戻れないので、返して欲しいと頼む。漁師は承知して返すことにするのだが、そのかわり天女の舞を見せてもらうことになる。
 天女は、羽衣がないと舞を舞うことができないので先に返して欲しいと言うのだが、漁師は、先に返すと舞を舞わずに天に帰ってしまうのではと疑う。ここで天女が一言、「偽りを言うのは、人間だけです。」かなりキツイ言葉だ。
 漁師は恥ずかしくなって、先に羽衣を返す。天女は喜び、約束通り美しい舞を舞って天に帰って行く。
 長唄だとこのストーリーがとてもわかりやすい。天女のセリフには、ドキッとしてしまう厳しさがある。
 綺麗な節回しと流れるような旋律で、琴を入れて演奏するとさらに雰囲気がでる。天女の舞のところは、能楽の雰囲気を出すために、囃子方だけでかなり長い演奏がある。ここはノリも遅いので、もの凄くしんどい。吹いていてとても苦しいところ。でも優雅に上品に綺麗に見せなければいけない。
 後半は表の囃子に加えて、陰で「奏楽」も入れ、とても華やかで賑やかになる。舞楽のような雰囲気がだせれば良い。
21 常磐津 将  門
 常磐津の名曲。セリフもあり、歌舞伎舞踊としても秀作。後半の立ち回りはSFの世界。「将門」と言っても、実際には将門は登場しない。
 頼信の命を受けた大宅太郎光圀が、相馬の古御所へ妖怪探索に行く。そこには頼信に亡ぼされた将門の娘滝夜叉姫が、遊女に身を変え、光圀を味方に引き入れようと待ちかまえている。光圀がそれを見破ると、滝夜叉は蝦蟇(がま)の妖術を使って大立ち回りになる。
 前半の見せ場は「嵯峨や御室の花盛り〜」のクドキ。歌詞もいいし、旋律も綺麗。唄の聞かせ所。このあと光圀が将門を敗った合戦の話を語ると、滝夜叉が思わず涙を流す。これを不審に思ったのがキッカケで、光圀は滝夜叉の本性を見破ってしまう。滝夜叉がごまかそうとして廓話をするところが、長い篠笛。しっとりと唄の聞かせ所でもあり、とにかく長い。吹いても吹いても終わらない。ハデな場面ではないので、よけい疲れる。息継ぎにまで気を遣う。
 見破られた滝夜叉は、妖術を使って光圀の命を狙うのだが、これがなんと蝦蟇の妖術。舞台の上に巨大な蝦蟇が現れる。綺麗な女性が、どうして蝦蟇の妖術など修行したのだろうか。いつもこの落差が不思議でならない。せめて龍や大蛇が出てくれば、カッコイイのに、蝦蟇ではどうもカッコよくない。巨大蝦蟇の背中に乗って見得を切ったりするが、どうもいただけない。
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