命の授業

 TOSS岡山サークルMAKの津下哲也氏の道徳授業「命の大切さ」を多少変えて追試します。

①群馬県嬬恋村の近くの浅間山が大噴火したことを紹介。(1783年8月5日)
②「みなさんならどうしますか。自分のとる行動を具体的に書きなさい。」
③鎌原観音堂に逃げた93人のみが助かり、477名の人命が失われたことを語る。
④1979年夏の発掘調査で石段の下から2体の人骨が見つかったことを紹介。
⑤「2人とも女性でした。1人は60代、1人は20代。2人はどんな関係だったと思いますか。」(2人は母子。子が母を背負って逃げようとしていたところ。)
⑥ここまでで感想を書かせ、数名発表させる。
⑦「浅間山大噴火の悲劇は突然の死です。突然の死に対して、予告された死もあります。」
⑧「ガンになり余命数ヶ月だと言われたら、あなたはどうしますか。自分がとるか  もしれない行動を3つ書いたら持ってきなさい。」→全員発表
⑨ガンにかかったのが神奈川県のある小学校の大瀬校長先生であることを告げる。
⑩浅間山の授業は大瀬校長先生がした授業であることを話し、「なぜ、校長先生はこの授業をしたのでしょうか。」と問いかける。
⑪校長先生が命の重さを子どもたちに伝えるために授業したことを語る。
⑫「千の風になって」の詩を使って授業する前に亡くなったことを話す。
⑬自殺のアンケート・年齢男女別自殺者数のグラフ・自殺の理由グラフを見せる。
⑭「自殺を減らすために、何をしたらいいですか。」
⑮「先生は、大瀬校長のように、命の大切さを伝えていきたいと思います。」
⑯今日学んだことを書かせる。

 最初の実践と大きく付け加えたことは、②と⑧と⑭の発問です。多様な意見を引き出すための発問を加えたのです。
 この授業を5時間目6年生、6時間目3年生に授業しました。 
 3年生には難しい面もあるのですが、6年生のように自分の意見を恥ずかしがったりする子が少ないので、3年生の方がよく発表していました。
 それぞれの意見をいくつか紹介していきます。

②「みなさんならどうしますか。自分のとる行動を具体的に書きなさい。」
《6年》・食料をもってほかの山ににげる。(荒田)
・大切な物を持ってにげる。(石丸) ・食料やお金を持ってにげる。(酒井)
・大事な物だけ持って、自転車でつっとばして逃げる。(平瀬)
・食料を持って高いところににげる。(神谷)  ・森ににげる。(高島)
・家族と一緒ににげる。(阿河) ・お金とペットを持ってにげる。(早川)
・土石流が流れてくるぎゃくのほうににげる。(上田)
・のうぐとおのをもって森へにげる。(乾) ・水のあるところににげる。(中)
《3年》・しょくりょうや水を持ってできるだけ遠くへ行く。(岡部)
・車ににげて、まぐまのほうこうのはんたいむきににげる。(松崎)
・となりの村まではしる。(生田) ・たいせつな物をもってにげる。(井上)
・食りょうひんをもってふねでにげる。(遠藤) ・川や海ににげる。(蔭山)
・高い所へにげる。(小石) ・ひつような物をもってちがう村へにげる。(小林)
・うきわでにげる。(小田川) ・土をほって地面にもぐる。(北村)
・ふかいおとし穴を作る。(小川) ・とめる。(奧間)

 6年生は、理科の授業で、土石流の恐ろしさや威力を映像で見ています。でも3年生は知りません。そのため、うきわや土をほってもぐる、とか出るのです。

⑥ここまでで感想を書かせ、数名発表させる。
《6年》・土石流は、こわいなあと思った。(荒田)
・あともうちょっとでたどりつけたのにしんだからかわいそう。(中)
・火山がはれつすると、大勢の人が死んでしまう。死んだ人はかわいそう。(神谷)
・もしお寺がなかったら93人ぜんいんしんでいたのでお寺がってよかった。(酒井)
・にげおくれたおやこは、とても、かわいそうだと思った。(川端)
・一緒に逃げようとしたのに、助からなかったのは、かわいそうと思った。(田中)
・せっかくにげ道があったのに、とちゅうで亡くなったのは、むなしい。(舩倉)
・20代の人は一人でにげたら、いきのびれたのに、60代の人をほおっておけなかったことがすごいと思った。(久田)
・60代の女性を背おってにげた20代の女性は、えらいと思う。(早川)
・人生というのはむなしいおわりかたもあるんだなぁと思った。(三宅)
・土石流はとてもきけんなものといましりました。なくなった人は、477人のひとはとてもかわいそうだと思った。(小島)
・その20代の女性は、自分の命が危ないのにほかの人までたすけようとしている思いがすごい。(石田)
《3年》・ほねがこわかった。(松崎) ・かわいそうだと思う。(藤田)
・このじだいのぐんま県にすんでなかってよかった。(木村)
・ふんかがあるとたくさんの人がなくなることがわかった。(生田)
・60才の人と20才の人がかわいそう。すごくかわいそう。(遠藤)
・山がふんかしてほしくない。(北岡) ・とってもこわいと思った。(北村)
・せっかくにげてたのにまにあわなくてかわいそう。(山本)
・かわいそう!やさしい!ぎせいがかわいそう。(中)
・その死んだ人がその60さいの人をせおっていこうとしたけどうまってしまってほんとうにかなしい(なきたいぐらい)。(伊藤)
・人が人をおもう気もちがわかるけど自分の命もたいせつだから人をおぶっていくより自分だけにげてなくなった人の分もいきたほうがいいとおもう。(岡部)

 3年の岡部さんの意見には、びっくりしました。3年生でもここまで考えられるんだなと感心しました。(つづく)

(2007.11.22)

「ガンになり余命数ヶ月だと言われたら、あなたはどうしますか。自分がとるかもしれない行動を3つ書いたら持ってきなさい。」
 この発問が、今回のメインになるマルチ発問です。
 大瀬校長のしたことと対比させるために、子どもたちに自分ならどうするかを書かせるのです。それゆえ、子どもの発表の後に、大瀬校長のことを紹介するという流れになるのです。
 板書してない子に発表させてから、黒板のを読ませていきます。
 口頭のみの発表に関して、私は口を出しません。音声だけの発表では、他の子の頭に残りにくいからです。
 一方、板書されたものは何度でも読み直せます。だから、私のコメントが全員のものとなりやすくなるのです。

《6年》・ずっとねる。(浮島)→「それだったら死んでるのと変わらないじゃない。」
・そばを食べてみたい。(石田)→「どうして?」そばアレルギーだから。
・犬とふれあう。(小島)  ・ガンプラをかいまくる。(中)
・やりたいことをやる。(糸井)→「例えば、何をやりたいの?」
・お金を全部使う。(神谷)→「いっぱい貯金してるんだね。」肯定。
・自分のやりたいようにしたいからてんてきをはずしてにげる。(三宅)

 胃をとると、栄養を点滴でいれないといけなくなる、という話を少ししていたのです。でも、三宅くんのような意見が出ると、教室に温かな笑いが起こります。
 授業のテーマは、死を扱っているのですから、深刻なものです。それでも、授業として扱う限りは、笑いがあってもいいと思うのです。
 向山氏の「石うすの歌」の授業テープを何回か聴きました。原爆の話なかでも、笑いが起こるのです。聞く人が聞けば、不謹慎だと思うかもしれません。
 でも、深刻な問題でも明るく前向きに考えていけるのも人間なのです。心を暗く落ち込ませて、そこに豊かな学びがあるとは思えません。

・みんなに手紙をわたす。(荒田)→「いいねぇ。○○くん、今までありがとう。○○さん、ほんとは好きだったよ。みたいな手紙を書くんだね。」(笑い)
・毎日、ゲームする。(乾)  ・ごはんたべる。(小西)
・いままで通りにくらす。(舩倉)  ・すきなものを買う。(高島)
・お母さんお父さんかぞくに「ありがとう」を伝える。(早川)
・家ぞくと友達とすごす。(石丸)  ・ひきこもる。(宮田)
・したことのないことをする。(銭谷)→「バンジージャンプとか?」
・旅行に行く。(田中)→「どこ行きたいの?」こたえらず。
・ジェットコースターにのある。(上田)→ドクターストップかかったから。

 子どもたちもいろいろな事情をかかえているのです。授業の中で、様々な意見を交流することが、道徳の真骨頂でもあると思います。(つづく)

(2007.11.23)

「ガンになり余命数ヶ月だと言われたら、あなたはどうしますか。自分がとるかもしれない行動を3つ書いたら持ってきなさい。」
 上記の発問を2年生にすると、6年生の違った答えが多く出ました。
 一番驚いたのは、「自さつする」と書いた子が4人もいたことです。そういう言葉がすぐに出てくること自体に驚いてしまったのです。

・えいようをとる。(徳富)  ・しゅずつする。(遠藤)
・生きるために命がけでじゅづつする。(高戸)
・おとうさんにいろいろなところにつれていってもらう。(北岡)
・ゆめをかなえてもらう。(大杉)  ・しにたくないけどそのままねむる。(三坂)
・お母さんとお父さんと手紙をのこす。(小石)  ・じさつする。(山本)
・食べたいものをいっぱい食べる。(木村)  ・やりたいことをやる。(奥間)
・死なないようにいのる。(北村)  ・びょういんに行く(小田川)
・うんどうする。(船越)  ・しじゅつをする。(喜多)
・りょ行に行く。(藤田)  ・じぶんのやりたいことをぜんぶやる。(伊藤)
・友だちに今までありがとうやあそんでくれてありがとうと言う。(熱田)

 3年の子は治りたいという思いが強く、余命3ヶ月という設定を受け入れるのが難しかったようです。6年との違いが明確に出たところですね。(つづく)

(2007.11.24)

「自殺を減らすために、何をしたらいいですか。」の問いは、6年生だけにしました。(3年生は時間が足らなかったので。)
 子どものノートからいくつか抜き出してみます。

・家族がかわいそうって言う。(荒田) ・その人と話しあう。(平瀬)
・じさつしようとしている人をとめる。(中) ・メンタル面を強くする。(奥原)
・いじめをなくす。(神谷) ・おまえは、とうちゃんとかあちゃんをかなしくさせたいのか。といってせっとくする。(高島) ・国が変わればいいと思う。(田中)
・経済面でくるしい人には国やお金持ちの人がお金を分ける。(藤本)
・せいしんびょういんにつれていく。(乾) ・い学を進歩する。(銭谷)
・なやみをきいてあげる。(小西)
・ほしいものをきいてほしいものをかってあげる。(三宅)
・この前の校長先生みたいな人がもっといたらいいと思う。(石田)

 自殺を減らすにはどうしたらいいかを簡単に聞くべきでなかったかもしれません。私自身がどう減らしていいか答えを持っていません。また、自殺を減らすためのいろいろな人の努力みたいなものを調べておくべきでした。
 子ども達の意見は、見方によれば、人ごとで理想的です。でも、こういうことを考える場を何回も経験することで、世の中を見る目を鍛えていけるのではないかとも思います。
 完璧を目指して何もやらないより、将来の可能性にかけて、一歩でも踏み出す方が大事なのではないでしょうか。
 子どもたちの今日学んだことを数点、紹介します。

《6年》・今日は、いろんな死について習った。予告死、とつぜんの死、自殺などいろいろあるけども、ぜったい自分の身を捨ててはいけない。家族がどれだけ悲しむか、そして、それがどれだけ無意味なのか。(石田)
・命は大切な物で自殺なんかしたらあかん!!と思った。死にたくて死ぬんじゃない人もおるのに…と思った。(早川)
・今日は、命の大切さについて勉強した。私は、一番、いじめ→じさつが多いと思っていたから、ちょっとびっくりした。やっぱりじさつはあかんなー。と思った。(宮田)
・今日学んだことは人の命はそうかんたんにおわらせたらいけないこと。思ったことは、生物はなぜ死ぬのか。死んだらどこにいってしまうのか。きおくはあるのかということです。(上田)
《3年》・ぜったいにじさつなんかしないでしぜんにしぬまでたのしく一生けん命いきたいとこのじゅぎょうをやってきょうおもって、じさつなんかぜったいしないと思いました。(北岡)
・どんなつらいことがあってもいつまでも生きつづけたいと思いました。(生田)

(2007.11.25)