東北大学で聞いた川島先生の話

 今日、仙台から帰ってきました。一泊二日の旅です。
 東北大学・川島隆太氏の話は、圧巻でした。仙台に行って良かった、と思えるお話でした。
 本に書かれているお話もあるのですが、それを川島先生から直接に聞くと、事実の重みがずっしりと伝わってきます。
 そういう学び方をすると、自分が子どもや他の人に伝えるとき、自信を持って語ることができそうです。
 さて、聞いてきたことを少しずつ、紹介してみます。

① 復習が脳を活性化する。

 光トポグラフィーという装置を使って、実験します。
 今新しく学習する時の脳は、左脳が活発に働きます。(右脳はあまり働きません。)次に、二学年ぐらい下の学習をしてみると、右脳だけでなく左脳も活発に活動するのです。
 脳を活性化しようと思えば、新しいことを学習させなくても、これまで習ったことを復習する方がいいわけです。

(2003.1.26)

 学力研から、次のような質問を出していました。

「計算、音読の他に、学校で取り組める活動で脳を顕著に活性化させるものは? 例えば、けん玉、お手玉等の遊びはどうか。」

② 手を細かく使う作業をしても、前頭前野は活性化しない。

「指先や手を使うと頭がよくなる」と、20年前からあった主張ですが、実際には、脳を活性化しないということです。
 ただ、コミュニケーションの一環としてするなら、効果はあるそうです。
 人と人とが会話をしたり、一緒に遊んだりすると、脳が活性化するそうです。
 乳児期では、特に親子間のコミュニケーションが大切だということです。
 テレビやコンピューターゲームを制限することで、家族間でのコミュニケーションの場が増え、脳を活性化していくべきだと、おっしゃっていました。
 一つ衝撃的な話がありました。
 森昭雄氏の『ゲーム脳の恐怖』という主張は、全くの誤りだそうです。
 ゲームで脳がこわれることはない、そうです。
 全国大会でお呼びすることになっているけれど、どうしたものでしょうか。

(2003.1.27)

 2~3分音読や計算をした後に、迷路テスト(空間認知力)・符号合わせテスト(総合的作業力)・単語記憶テスト(記憶力)をさせたそうです。そうすると、音読や計算をしていないグループと比べると、明らかに、認知力や記憶力が上昇していたのです。

③ 音読や計算をすると、認知力や記憶力が向上する。

 さらに、

④ 計算を速くする方が、ゆっくりするよりも、認知力や記憶力が2倍程度 アップする。
⑤ 音読も、速いスピードで読めば読むほど、脳が活性化する。

 計算も音読も速くさせることが、脳力の向上につながるわけです。
 音読を高速で読ませる伴先生の指導法の正しさが、脳科学によって証明されたことになります。感情をこめてゆっくり読む必要は、そんなにないわけです。
 速読、大いに実践しましょう。

(2003.1.28)

 右ききの人の場合、空想したり想像力を発揮したりするのに、左脳を使うそうです。(想像力は右脳というのはウソ)左脳というのは、言語活動を司る脳なのです。言語を介する限り、空想も想像も左脳を使うというわけです。

⑥ 読み・書き・計算で、人格が育つ。
⑦ 読み・書き・計算で、創造力が育つ。
⑧ 読み・書き・計算で、コミュニケーション力が育つ。

 こわいほどに、読み・書き・計算は威力を発揮するのです。
 でも経験的に考えてみると、読み・書き・計算の基礎的なことをしっかりやっているクラスは、落ち着いています。原田学級がまさにそうかもしれません。
 こんなに、効果のある読み・書き・計算ですが、何時間も続けてできるわけではありません。

⑨ 前頭前野を長時間、使い続けることはできない。

 ゲームというのは、前頭前野を使わないから、長時間できるそうです。

(2003.1.29)

 さて、学習は、朝・昼・晩、いつやるのが最適なのでしょうか。

⑩ 朝食1時間後が最適。夜やっても効果は少ない。

 午前中に、読み・書き・計算の学習をするといい、ということです。
 ところで、基礎・基本の学習が大切な理由をニホンザルが教えてくれました。

【実験1】サルはある一定の場所から動けません。手の届かない所にエサがあります。でも、その間にヒシャクがあって、その道具を使えば、エサを取ることができるのです。サルがヒシャクを使ってエサを取るのに、3ヶ月のトレーニングが必要なのだそうです。
【実験2】今度は、もっと遠い所にエサがあり、手前のヒシャクを使ってもエサは届きません。しかし、もう1本の長いヒシャクがエサより手前にあります。手前のヒシャクを使って、長いヒシャクをたぐりよせれば、そのヒシャクでエサを取ることができます。

 この実験、実験1をできるようになったサルは、1週間でできるそうです。
 しかし、実験1を身につけていないサルでは、一生かかってもできることはないのです。基礎・基本があってこそ、応用・発展ができるわけです。

(2003.1.30)

 川島先生は、評価の問題について、疑問を投げかけていました。
 何かテストをしたとします。その時に、4パターンの結果が出てきます。

 ①遅くて不正確 ②遅くて正確 ③速くて不正確 ④速くて正確

 現在の評価は、②も④も同等の評価を下しています。
 一番いいのは、「④速くて正確」。これは誰もが納得するでしょう。
 そして、「速くて不正確」よりも「遅くて正確」の方がいい、と大抵の人は思うでしょう。私もそう思います。
 しかし、「速くて不正確」も「遅くて正確」も、同等の評価でいいのではないか、というのが川島先生の考えなのです。そして、それを反比例のグラフで、表していました。
 極端な例を出してみましょう。
 1秒で×、1年かけて○。
 1秒で×になった子は、残った時間で別の問題を解くことができます。1年かけて○の子は、1年かける間、他のことは何もできなかったことになります。
 でもそれでも、「遅くて正確」でもいいじゃないか、とも思ってしまいます。
 評価の問題としては、考えてみるべきことでしょう。
 速くて正確な子をもっともっと評価していってもいいです。

(2003.1.31)