ロマン・ソロバン・ジョーダン

 田中和彦『あなたが年収1000万円稼げない理由。~給料氷河期を勝ち残るキャリア・デザイン』(幻冬舎2007.1.30)を読み終わりました。新聞に載っていた本の売り上げランキングで、1位になっていました。それほど、今の収入に不満もしくは不安を抱いている人が多いということでしょうね。
 私自身はどうかというと、やはり講師の仕事がなくなれば収入がなくなります。蓄えで生活できるのも2年程度でしょう。旅行への興味もなければ、買いたいものもそれほどありません。ただ、一生を不安なくすごせるだけの蓄えがあればなぁ、という思いはあります。そんな思いが、こういう本を手に取らせるのでしょうね。(こういう手の本を書く人が一番、儲けているのですが。)

野村監督は、現役時代から今に至るまで、ユニークなエピソードに事欠かないのだが、ヤクルトスワローズの監督に就任した1990年の、選手たちとの最初の顔合わせの場での挨拶の逸話が、私は最も好きである。
 その場で、野村監督は開口一番、選手たちにこう質問したそうである。「野球の基本中の基本は、ボールカウントだが、それは何種類あるか?」。これには、選手の誰ひとりとして即座に答えられなかったそうである。「バカモン!お前ら何年野球をやっとるんや!そんな基本も知らんで」と呆れて(もしくは、呆れたふりをして、だろうと思うが)、黒板に、0-0(ノーストライクノーボール)から、2-3(ツーストライクスリーボール)まで、12種類のボールカウントを書いたそうである。その上で、「じゃあ、この中で、バッターに有利なカウントと、ピッチャーに有利なカウントは、それぞれどれか分類してみろ」と、再び選手たちに投げかけたのだ。(P.94)

 12種類あるボールカウントを言わせるのはマルチ発問で、バッターに有利なカウント、ピッチャーに有利なカウントを分類させるのはセレクト発問です。
 ところで、作者が言いたいのは、野村監督が上記のような質問を選手に投げかけることで、野村監督のID野球を示したわけです。
「初対面の場で人のハートをつかめないような人は、ビジネスの世界では決して成功はしない」例として、作者は野村監督の例を示したのです。

 くらたさんは、起業の3条件として、「ロマン」(夢、世のため人のためになるか)、「ソロバン」(金、稼げるか、儲かるか)、「ジョーダン」(愛、楽しいか、面白いか)を挙げている。このあたりがくらたさんのバランス感覚なのだが、新しい雑誌を立ち上げるときに、新規事業のスタッフたちに、「今期は、ロマン2、ソロバン7、ジョーダン1で行きまーす!」などと宣言して、みんなを方向づけし、鼓舞していたという。(P.105)

 くらたさんとは、「とらばーゆ」や「フロム・エー」などの情報誌を立ち上げた倉田学さんのことです。
 ロマン・ソロバン・ジョーダンのバランスって大事ですね。

(2007.2.25)