占有離脱物横領

 落ち研の天野さんが、太鼓判を押して勧めたのが、『「非行」と向き合う』(新日本出版社)という本である。著者は、浅川道雄さんといって、元家庭裁判所調査官という肩書きが書かれていた。
 とても読みやすい本である。それでいて、一般の人が勘違いしやすいところを専門的な視点で書いている。

 詳しい調査記録を作るために子どもの生い立ちにさかのぼって調べてみると、少年院に行くような重大犯罪をやる前に、子どもの初めての非行が幼いころにあるわけです。初めての非行群の中の大部分が、万引きか自転車窃盗か占有離脱物横領なのです。そうすると、われわれの言葉でいう初発非行の時期に、子どもがどういう取り扱いをされたかによって、それから先の子どもの成長の道筋が違ってくるということですから、このきっかけをそのまま見過ごしてしまってはやはりまずいのです。このときに、この経験を、子どもたちが二度と同じようなあやまちを繰り返さないという、プラスの経験に転化させてあげる援助を、周囲のおとなたちがするかしないか、それが非常に大きなことなのです。

 占有離脱物横領の説明を浅川氏は、数ページ前につぎのように書いています。

「占有離脱物横領とはつまり遺失物横領と同じで、誰かが置き去りにした自転車、あるいは置き去りにしたというより、誰かが盗んで、盗んでというより無断借用して、使ってその辺に乗り捨てた自転車などがどこにでも転がっていますが、おとなはあまり手を出さないそういうものを、子どもはもったいないと思って手を出すわけですが、乗っていて捕まってしまうというものです。」

 長い一文でしょ。しかし、それでいて、わかりづらくない。一応、主語と述語も対応してます。これは、たいした文章力といえます。
 さて、最初に引用したものは、これは懇談会に使えそうです。
 この引用文と、向山氏の万引きが起こった時の対処の仕方をセットでやれば、きっと、親も納得して聞いてくれると思う。

 子どもたちは親や学校の先生から「他人に迷惑をかけることはしてはいけない」といわれています。繰り返し繰り返しいわれて、自分でもそう思ってはいる。しかし、万引きと自転車窃盗と占有離脱物横領、シンナー、覚醒剤など、こうしたことについて、子どもたちは悪いことをしたと思っていないのです。他人に迷惑をかけることとは考えていない傾向にあります。

 善悪では歯止めにならないということである。どうしたものか。

(1998.4.4)