教育書が売れなくなったわけ

『PRESIDENT2016.2.15』に、鎌田浩毅「なぜビジネス書は売れなくなったのか」を読むと、教育書が売れなくなったことと通じることがあると思えました。

 元来、ビジネス書は仕事を効率的に進めるノウハウを伝授するものだ。ところが、今やそれが「ドクサ」化している。ドクサとは、古代ギリシア語で「人間を絶えず惹きつけるが、必ずしも幸福にしないもの」という意味だ。右肩上がりの経済に沿って、ビジネス書が有効に機能する間は全く問題がなかった。しかし、社会の成長が頭打ちになると、努力してビジネス書を読んでも達成感が得られなくなってきた。

 教育書に載っている実践は、私たち教師を惹きつけるけれども、それで自分の実践がうまくいき、幸福を感じるわけではなかったりします。社会の成長が頭打ちになるとともに、それは保護者の生活と心を圧迫し、そのひずみが弱者である子どもに向けられます。その被害を受けた子どもが学校で問題を起こすわけです。

 さらに、本から教えられたことの全ては実行できないので、自分が「能力のない人間」と思いこむ読者が増えてきた。真面目なビジネスパーソンほど、「読み方が悪いのか、意志が弱いのか」と悩むのだ。理想と現実のギャップに苦しみ、心の奥で劣等感が増していった。

 人間としての経験も個性も固有能力も違うのですから、書かれた通りできるわけはないのです。教育書が売れなくなるのも、仕方のないことなのです。

(2016.2.21)