でもではなくだからできること

 垣内俊哉『バリアバリュー~障害を価値に変える~』(2016.3新潮社)より。

 私たちは、何かしらバリアを感じた時、どうしても「自分の方が環境に合わせなければいけない」と考えてしまいます。
 そうではなくて「自分に合った環境はないか」「環境を自分に合わせられないか」という方向からも、物事を眺めてみてはどうでしょうか。

 例えば、私は音楽の指導が苦手です。楽譜もほとんど読めないし、楽器もほぼ演奏できません。それゆえ、音楽指導関係の本をたくさん買いました。ピアノを習いに行ったこともありました。自分の方を合わせようとしていたのです。
 あるとき、会社活動で音楽会社が生まれました。そうすると、その音楽会社が人気の歌をドレミで書いてくれたのです。私はそれを印刷して、みんなに配り、授業で練習させたりできました。音楽の苦手な私でもできる環境になったのです。

 かの「経営の神様」、松下電器の創業者である松下幸之助さんは3つの条件が成功の理由だと話していたそうです。

 貧乏だったから、一生懸命働こうと思い、わずかな給料でも感謝できた。
 学歴がなかったから、他人に素直に教えてもらおうと思えた。
 体が弱かったから、人の能力を信じて、人に任せることができた。

 まさにどれもバリアをバリューに変えた好例だと思います。どんな弱点でも、目線を変えてみれば、何かしらの価値が隠されているものです。

 弱点の中に価値が隠されている例として、授業でも使えそうです。
 今の子は、松下幸之助さんを知りません。
 でも知らないという弱点ゆえに、先入観をもたずに教えることもできるのです。 ところで、垣内さんは、中学時代、野球部でした。
 車いすで野球部というのが意外に思えますが、地元の中学校だったから、受け入れてもらえたのでしょう。
 なかなか試合に出してもらえない垣内さんですが、スコアラーとして、がんばりました。でも、代打として起用されることもあったそうです。
 ちなみに、ストライクゾーンは、肘から膝までの間です。車いすの垣内さんのストライクゾーンは極端に狭いのです。そのため、いつもフォアボールになったそうです。「フォアボール製造機」という異名もついたそうです。

 スコアラーは「車いすでも、できること」でした。
 けれども、「フォアボール製造機」と呼ばれるようになって、私は「車いすだから、できること」に出会ったのです。

 私自身も、荒井でもできることではなくて、荒井だからできることを見つけていきたいものです。

(2016.11.20)