落合信彦『魂』(光文社)は、教育について書かれた本でした。副題は、「人生に合格するための新・学問のすすめ」です。
この本に出てくる大学教授の言葉が、どれも知的で刺激的です。
「簡単な単語のスペリング ミスを犯すような奴は恥ずかしくて世の中には出せん。基本ができてない奴は揺れ動くリグ(やぐら)の上で生きているようなものだ」
「基本ができてない~」というところは意味深いのですが、それ以上に「世の中には出せん」という言葉の方が、私に迫ってきます。
そこには、大学教授として生徒に教える責任感をより強く感じるからです。
「おまえらような奴は、小学校を卒業させられん。」と言い切る力を自分につけたいものです。
「お前たちのようなただ息をしている野菜のような連中がこの国を継ぐと思うとわしは心配で夜も眠れん。ましてやこのまま死ぬわけにはいかん。頼むからわしに安眠を与える努力をしてくれ。無知であることを拒否する人間になってくれ」
今、私が担任している子ども達も、やがては、この日本を継いでいくのです。「心配で夜も眠れん」ような心境に、私もならないといけません。
少し長いけれど、教授代表が卒業生に贈った言葉を紹介します。
「私は今日君たちにあえておめでとうとは言わない。これからが大変だからだ。この四年間で君たちは全力を尽くして勉学に励んできた。だから今日ここにいるのだ。
しかし、この四年間はただ君たちの人間としての土台を作ったにすぎない。その土台の上になにを建てるかは君たち次第だ。
オルブライトのロゴ マークにはラテン語で“真理と正義”と書いてある。これらの言葉はあまりにも抽象的で私は好まない。
むしろ私は聖書の言葉を引用したい。“人が全世界を得ても自分の命を失ったら何の意味があろうか?”
この場合の命とは『魂』と私は解釈している。この四年間われわれは君たちに生きた魂を持つことの大切さを強調してきたつもりだ。
知識は失っても取り戻せる。だが、魂が涸れてしまったら生ける屍と化してしまう。
これから世に出て君たちは諸々の事態に遭遇し、いろいろな経験を積んでいく。
時には目の前の利益のために妥協をせまられることもあるだろう。またときには能率第一主義に走り人間性を無視せねばならない立場に立たされるかもしれない。
そんなときは自らに問うて欲しい。自分の魂は生きているのか、息吹いているのか、と。
そして肝に銘じて欲しい。君たちはこのオルブライトで四年間魂を磨いたのだ。
そのためにわれわれはベストを尽くした。
なぜなら真の教育とは魂の設計者であると信じているからだ。
さあ世界に出て翔べ。熱い魂を持って人生を駆けろ。恐れるものは何もないのだ。
ベスト オブ ラック アンド ゴット ブレス ユー オール」
やがて、今の学級の子ども達も卒業を迎えます。
その時に、「私はベストを尽くした」と言えるだろうか。そして、「魂の設計者である」なんてことのほんのかすかでも思えるだろうか。
その前に、私の魂は生きて、息吹いているのだろうか。
(2000.7.26)