サボテンの花

 平成27年度の新教科書『新しい国語六』(東京書籍)に、やなせたかしさんの書いた物語「サボテンの花」が載っています。4ページ弱の短い作品なので、全文を紹介します。

   サボテンの花
                                やなせ たかし 文  川上 和生 絵 
 赤い砂ばくの中にサボテンが一本生えていた。がっしりとして青く、全身とげだらけだった。何か一つの意志のように、そこに立っていた。
 砂ばくをふき過ぎていく風がサボテンに聞いた。
「どうしてこんな所に生えているんだい。ここに生えるのはむだなことだ。つらい だけで役に立たない。少し行けば緑の平野がある。そこには水もある。ゆっくり とねむりながらくらせる。」
「なるほど。そこはいい所らしい。しかし、ぼくはここがいい。ねむるようにくら すより、たたかいながら生きたい。それが生きるということだと、ぼくは思う。」
 風はふき過ぎていった。分かったような分からないような、あいまいな口笛をふいて砂ばくの向こうへ消えていった。
 サボテンは相変わらず立っていた。炎熱の中、うずまく砂じんの中、かわききった荒野の中。
 ある日、一人の旅人が通りかかった。もう死ぬ直前だった。体中がひからびていた。旅人はこしにつるしていた剣をぬいた。気力をふりしぼってサボテンに切りつけた。ざっくりと割れた傷口からおどろくほどの水が流れた。旅人はサボテンの水を飲んだ。そして、再び旅を続けた。
 あのときの風がまたふいてきた。
「ばかだな。君は何もしないのに、切られてしまったじゃないか。」
 サボテンはあえぎながら答えた。
「ぼくがあるから、あの人が助かった。ぼくがここにいるということは、むだじゃ なかった。たとえ、ぼくが死んでも、一つの命が生きるのだ。生きるということ は助け合うことだと思うよ。」
 サボテンの傷口はやがて回復した。信じられないほどの気力で立ち直った。砂ばくは全くかわいているように見える。でも、水はどこかにある。サボテンは、ほんのかすかな水を体にためて、さりげなく立っている。見たところは砂まみれだが。
 ある日、おどろくほど美しい花がさいた。だれ一人として見る人もなかったのに。

 この教材は、一点突破の講座で扱うことに決めました。
 国語として扱い、道徳としても扱えそうな気がします。
 サボテンは風が聞かなければ、自分の思いも語らずに、ただそこにひたすら立っていたことでしょう。
 誰かに認められるためでなく、自分の意志で、信じた道を生き続ける、その強さに、日本人の魂を感じます。

(2014.8.24)

「サボテンの花」の授業展開です。作者名だけ隠して授業します。

1)「平成27年度版の新教科書、東京書籍6年国語に載っている最初の物語です。」
2)「作者名は伏せています。ご存知の方はまだ言わないようにして下さい。」
3)「短い物語なので、立って1回読んだらすわりましょう。」
4)「初読の感想を隣の人と言い合ってみてください。」
5)「登場人物を全てノートに書きましょう。」
6)登場人物:サボテン・風・旅人(中心人物がサボテンであることを確認。)
7)「物語の中で、対比されているものを見つけましょう。」

 どんな対比があり、どのように対比されているかを見つけてみます。

サボテン        風
立っているだけ   自由に移動できる
静         動
現状肯定      現状否定

サボテン       砂ばく
青い        赤い
水をためてる    かわいてる
1本        多くの砂

サボテン       旅人
とげを持つ     剣を持つ
静         動
水をたくわえる   ひからびた

砂ばく       緑の平野
かわいてる     水がある
炎熱        平温
うずまく砂じん   おだやか
8)「最も重要な対比はどれですか。理由も考えましょう。」発表。
9)「この物語の主題を対比の中から見つけて書きましょう。」

 中心人物には、最初と最後で大きな変化が起こります。この物語のサボテンならば、最後に、おどろくほど美しい花をさかせます。
 もし、サボテンが緑の平野にいたとしたら、そんな花はさくでしょうか。
 さきはしない、と作者は言いたいのでしょう。
 おどろくほど美しい花をさかせた理由(原因)を考えることでも、この物語の主題に迫ることはできます。
 でも、今回は、対比の中から主題を見つけ出す授業展開としました。

 逆境の中で傷つきながら生きぬく人が、誰かを救うことができる。

 これが主題だと、私は考えます。
 ここで、国語の授業は終え、上記の主題のような人が実際にいるのかどうかを一点突破の講座では聞いてみます。
 東日本大震災で、流された多くの金庫が届けられたニュースがありました。
 逆境の中にいながら、金庫を流された人のことを考えて行動できることに、欧米の人たちも驚いたそうです。
「サボテンの花」の作者・やなせたかしさんの言葉です。
「正義を行うときには、自分が傷つくことを覚悟しなければ行えない。」
 自己犠牲が否定されがちの世の中だからこそ、重い言葉だといえるでしょう。

(2014.8.25)