アドバルーンがいっぱい

 出勤1日目です。
 病欠の代わりといっても、担任は担任です。クラスの統率者なのです。
 担任として、2年生の子ども達の前に立つと、次々にアドバルーンがあげられていきました。
「このクラスは、最初が肝心だ。」
と、強く思いました。
 病気で先生が休み、びっくりして不安な子ども達です。できることなら、やさしく接してあげたい。
 でも、ここであがるアドバルーンの対処をいい加減にしたら、あっという間にクラスはつぶれていきそうです。
 私の名前を板書したあと、
『今から、一人ひとりの名前を呼んでいきます。自分の名前が呼ばれたら、「は い、荒井先生。」と言って、握手してください。』
『八原勇太くん。』
「はい、荒井先生。」
『池内恵理菜さん。』
「はい、荒井先生。」
 そう二人目の時、私が握手をして『よろしく』と言ってると、
「さむぅ~」という声が聞こえてきました。
 その子の隣の子です。
 これは、アドバルーンです。
『○○くん、立ちなさい。』
『○○くんは、今、「さむぅ~」と言いましたね。』
『今、寒い人、手をあげなさい。』
 窓も閉め切ってるし、誰も手をあげないだろうと思うと、手があがりました。 この聞き方は、私の失敗でした。
 でも、後には引けません。
『今、手をあげた人、立ちなさい。』
『今、立った人は、温度が低いから寒いんですね。』
『温度が低くて寒い、という人はすわりなさい。』
 すると、最初に「さむぅ~」と言った子も、一緒にすわろうとしました。
『○○くんは、立ってなさい。あなたの「さむぅ~」は、寒いから言ったんでは ありません。先生がやってることに対して、そう言ったのです。』
 もう、たたみこみます。
『○○くんのように、「さむぅ~」と言っていいという人?』
 誰も手があがりません。
『だめだ、と思う人。』
 他の子、全員の手があがります。
『○○くん、あなたはどう思うのですか。』
「あかん。」
『そうですね。次からは気をつけなさい。』
 こうした指導をすると、教室の中の空気が少しピリッとしました。
「この先生は、油断できないぞ。」
という警戒の雰囲気が生まれるのです。
 さて、9人目の男の子は、
「ヘイ、荒井先生。」と、答えました。
 この日、この子と3回以上対決しました。
 例えば、体育館に行くために廊下に並ぶとき、その子に「静かに並びなさい」と言うと、「いやです。」とその子が言います。
 すぐさま全員を教室に入れ、そのことを全員の前で話して、その子に謝罪させました。
 一日の様子を見ていると、自分の思い通りにならなかったら、嫌だ、という子が5,6人(それ以上か)は、いるようです。
 謙虚さや素直さが足りない子は、学習ができるようにはなりません。
 アドバルーンたたきを楽しんでいきたい。  

(1999.11.4)