ついに、事は起こった。
ボスに近い一人の男の子の母親から、朝電話があり、「今日休ませます」という連絡があり、その理由は語らなかったそうである。
1時間目の休み時間、校長室に私は呼ばれた。
その母親が来られていたのだ。
話によると、次のようなことがあったらしい。
昨日の放課後、トイレで、ボスがその子に「口をあけて、舌を出せ」と命じた。その子は従い、ボスはその子の舌に、トイレのデッキブラシをつけたということである。
それ以外に、月曜日、ランドセルでなぐられた、ということもあったらしい。
これは詳しく聞かないといけない話なので、放課後、教頭先生とある程度、今後の対策を検討したあと、来校された母親の家に行った。
そして、事情を詳しく聞いた。
『今日中に、解決します。』
と、私は宣言して、行動を開始した。
トイレの現場を見ていた子が、数人いた。
(最終的には、9人が傍観者として、そこにいた。)
全員、一軒一軒回った。
必ず、傍観者の子当人と親の前で、昨日の事実を伝えた。
(親が帰ってきてない場合は、帰ってきてから伺った。)
『(トイレ事件を伝えたあと)そういうことがあったんですね。』
と、確認。
『誰がいましたか?』
と、名前を聞き、
『誰か止めましたか。』
と問う。誰一人、止めなかったそうだ。
『ということは、あなたも止めなかったんですね。』
『なぜ、止めなかったんですか。』
『○○(ボスの名)くんが、こわかったのですか。』
もう、その通りだったのである。
全部の家を回り終えると、7時近かった。
ボスとその母親に、学校に来てもらい、校長室で教頭と私とで、話をした。
事実を伝えると、母親は怒りだし、ボスに罵倒を浴びせたあと、
「あんたなんか、電車にとびこんで死んだらいいんや。」とまで、言っていた
『お母さん、それは言いすぎです。』と、私。
教頭先生がなだめてくれた。
父親の問題も、大きいのだ。
とりあえず、明日からは、ボスは校長室登校である。教頭先生がボスと対して、話を聞いて指導していく。
私は学級指導を中心に行っていく予定だ。
最後に、トイレ事件の被害を受けた子の家に、再び行き(今度は教頭とともに)事の経緯を話した。
被害を受けた子には申し訳ないが、私はこの時をじっと待っていたような気がする。手ぐすねをひいていたのである。
ボスや他の子ども達に、ほんと、私は穏やかに接してきた。
学習の指導についても、厳しくすべきところも、甘くみてきた。(ボスのイライラを爆発させないために。)
そういう私の態度に、ボスは油断してしまったのだ。
隠れた今回のような行為を見つかったときに、私がどれだけ動いて手を打つか想像できなかったのだ。
本当の勝負は、これからである。
ボスを離した今の学級を質的に高めて変えていかなければいけない。
矢はもう、放たれたのである。
(2000.2.2)