虫歯を治そうと思わせる話

『教育トークライン2001.2』に載っている向山洋一氏の虫歯のある話は、しっかり使えるように覚えておきたい語りです。インフォキャリーにもコピーしておきたいので、今から、視写していこうと思います。

 虫歯の検査が終わりました。虫歯あるっていう人、手をあげてごらんなさい。はい。虫歯についてお話しをいたします。
 これがみんなの歯です。(黒板に一本の歯と歯ぐきまでを板書する)歯の下の方はね、こうなっている。これが歯ぐき。この歯ぐきの下にね、このように歯がいっぱい入っています。
 このまわり。これはね、堅いエナメル質。世界で一番堅いような物質でできている。だから、これがある限り、みんなの歯は三十年でも五十年でも七十年でもみんなの歯は一生使える。ただ、これが壊されちゃうと中はもろいんだ。あっという間にだめになっちゃう。

 向山先生が話されていることは、全て事実です。
 でもその事実を子どもの胸に落ちるように、実に上手に語っておられます。
「三十年でも五十年でも七十年でも」というのは変化のくり返しですね。

(2001.2.2)

 ほんとに向山先生の語りは、具体的です。場面が頭に思い浮かびます。

 みんな毎日ご飯やお菓子を食べたりするでしょ。そうするとまわりにかすがついちゃう。これは水でうがいをしても何をしてもなかなかとれない。本当に薄いのが、少し少し、少し少し、毎日ついていく。この上の方にもついてくる。そして、これが歯に穴をあけていく。
 歯に穴があくのは最初はこのくらい。これをC1(カリエス・ワン)という。最初の段階。神経はこう通っているから。このように通っているからまだあんまりいたくない。自分では気がつかない。大丈夫だ。でも、もう穴があいちゃっている。今年はじめて歯が悪いといわれちゃった人は、みんなこういう状態。この人は歯医者にいって治すと簡単だ。歯医者さんはどうするかっていうと、こうジー、ジー、ジーってやって、こういうふうに鉄の固いものをつめこんでくれる。治すのに一日。一回いけば治っちゃう。治ればずーっとそのまま。
「いかなくていいや」
なんて思っていると、これは必ず広がっていく。

「ジー、ジー、ジー」っていう擬音語が、場面を具体的にしていますね。

(2001.2.4)

 向山先生のくり返しのうまさ、絶妙です。

 次の年。こうなって。(板書の歯の穴を深くする)C2(カリエス・ツー)。これは痛い。神経に触れている。さわっている。お水を飲むといたいなー。甘いものを食べるといたないー。これはもう二年目になっている。これ、ほっておいたって治らないよ。絶対に治らない。進むだけ。こうなっている人も、みんなの中に三人いた。
 でも、この人は治しに行って、お医者さんに行くと、ここをまたジー、ジー、痛いとこちょっと取ってくれる。こういうふうに治して、これまたつめてくれる。まあ、三回ぐらいかかるかな。しょうがない。一年も放っておいたんだから。三回ぐらい行って治してらっしゃい。
 でも、痛いのがまんして、「へっちゃらだ。そのうち何とかなる。へっちゃらだよ。そのうち何とかなる。」…と…

  そういえば、アメリカなどの国では、歯医者に定期的に行き、虫歯になるのを未然に防ぐそうです。一方、日本人は、虫歯になり、痛くてどうしようなくなってから、やっと歯医者にいくそうです。日本人は、変にがまん強いんですね。

(2001.2.5)

 虫歯の話が、クラスの話に思えてきました。

 次の年、こうなっている。C3(カリエス・スリー)。これは痛い。ときどき歯がふくれ上がる。こうやって。膿や血が歯からこうやって出てきたりする。歯医者に行って、ジージーっとこういうふうに治して。いっぺんにできない。今日はこっちの方向。神経抜かなくちゃなんない。この痛いのなんの。痛い神経を抜き。そして、金属を上からかぶせる。これそうね。人によって違うけど、五回から十回ぐらい必要だ。
 まあ、自分がさぼっていたんだからしょうがない。一年に一つずつ確実に進んでいく。今年C1の人は来年C2。この次はC3。

 学級崩壊も虫歯のようなものです。
 最初は、C1。このときに、適切な処置をしてれば大丈夫。しかも、解決にそう時間はかからない。
 C1のとき、いいかげんにすると、一年ではなく1ヶ月もするとC2のクラスに、問題の解決には、ちょっと時間がかかる。
 でもC3になると、C4まで、あっという間。内のクラスはC3すぎたかな。

(2001.2.6)

 月曜の問題で、8時~11時まで親と話し合いを持ちました。これぞC4。

 今年ほっておいた人は来年C4(カリエス・フォー)。
 どうなっているかというと、こうなっている。ぼろぼろ。歯がかけ始める。これはしょうがない……。抜くほかない。ペンチみたいのでね。ぎゅってやってね。麻酔をして口開けてね。歯のところに、ここんとこ、このペンチでこうやってやるんだよ。これ全部抜くの。ギィーってやって。抜くほかない。
 ここまで丸三年。うん。あのーいいよ。ほっといてごらん。こうなるから。間違いなくこうなるから。歯を一本抜かれて、隣の歯も抜かれる。
 もう一回言うよ。最初はほとんどみんなC1。これ行けば一日で治る。ジーって治してくれる。もう、そのままずーっと大丈夫でしょ。
 ほっとけばこうなる。自分で決めてごらんなさい。

 ここの語りは、こわい。実際を想像すると、歯医者にいかなくちゃいけない、という気持ちになります。
 こういう知的な語りの後、向山先生は、最後に「自分で決めてごらんなさい」という。「だから行きなさい」じゃないところが、すごいところです。

(2001.2.7)