巻頭詩が一年を支える

 学力研ニュースの原稿ができました。
「一年間を見通した学級づくり 国語の巻頭詩が一年を支える」です。
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 七年間勤めていた学校を去る日、五年生の子どもたちに、一つの詩を紹介しました。

「花です 虫です からだです
 鳥です 草です こころです
 それらはみんないのちです
 という詩です。その詩の中で、
 互いに支えているんです
 見えない手を出し 声を出し
 互いに支えているんです
 というところがあります。みなさんは、卒業式の練習を通して、卒業した六年生のみんなが支え合っている姿を見たはずです。きっとみなさんも、支え合える立派な六年生になるはずです。期待しています。」

 この「いのち」の詩は、『新しい国語6』(東京書籍)の巻頭詩です。
 六年になり、国語の教科書を最初に開いたページに載っているのです。
 この詩が、一年間の学級を支えるものともなりえるのです。

一、国語の教科書には主張がある
 詩・物語・説明文・新聞づくり・インタビューなど、さまざまな教材が、国語の教科書には詰まっています。
 たんなる教材の羅列かとも思えますが、実は、意図的な編集がされています。
 先ほど紹介した小海永二の詩「いのち」は、いのちが見えない手、音なき声の支え合いで生かされてることを詠っています。
 このあと、やなせたかしの物語「サボテンの花」、谷川俊太郎の「生きる」の詩が続いていくのです。
「ぼくがあるから、あの人が助かった。ぼくがここにいるということは、むだじゃなかった。 たとえ、ぼくが死んでも、一つの命が生きるのだ。生きるということは助け合うことだと 思うよ。」
 サボテンを剣で切りつけ、その水を飲んだ旅人の命を救えたことをサボテンは、喜んでいるのです。
 生きることは支え合うこと。
 このような、教科書編集者の意図を読み取り、その主張をうまく活かせば、授業づくりだけでなく、学級づくりにも生かすことができます。

二、一年を通して使える巻頭詩
 巻頭詩は、教科書編集者の主張が一番鮮明に込められています。
 例えば、光村図書『国語五 銀河』には、次の巻頭詩が載っています。

あの遠い空にひとすじ、
星たちが、
ぶつかり合い、重なり合い、
河のように光っている「銀河」。
牛乳をこぼしたようにも見えるから、
「乳の道」とも言うそうだ。
どっちもいい名前だなあ。

 連れ読み・一斉読み・たけのこ読みなど、覚えるぐらい音読をした後、詩では、毎回聞く発問をしていきます。
「題名は何ですか。」
「作者は、だれですか。」
「何連の詩ですか。」
 詩の前には題名はないのですが、これはすぐに分かります。「銀河」です。
 光村図書の国語は、巻頭詩の題名を教科書のサブタイトルにしているのです。
 作者名も扉のページには書かれていません。でも、教科書の巻末を見ると、「とびら詩 羽曽部 忠」と書かれているのです。
 詩の連は、一連です。でもこの後、
「一連の詩ですが、三連の詩に分けることもできます。分けてごらんなさい。」
 句点があるので、簡単に分けられます。
「三連に分けた場合、どの連が作者の一番言いたかった連でしょうか。」
 連を選ばせ、その理由も発表させます。
「一連だと思います。なぜなら、題名の「銀河」が書いてあるからです。」
「三連だと思います。なぜなら、どっちもいいと言っているからです。」
 ぶつかり合い、重なり合いが、学級の姿をイメージする先生は、一連を選ぶかもしれません。私は、二連を選びます。
「二連では「乳の道」とも言うそうだ。と言っています。この詩を語っている人は、「銀河」が以外の言い方を知ったのです。
 みなさんは五年生です。同じ学校なので、友だちのことはよく知っているかもしれません。でも、そうなのでしょうか。まだまだ友だちの知らない面があるのではないでしょうか。この一年間で、友だちの知らない面をたくさん見つけ、よりなかよくなってほしいと、先生は願っています。」
 詩の授業がいつのまにか、学級づくりになったわけです。

三、見かけだけでは分からない

「僕は、植物に嫉妬することがあります。」

 なぜ、植物がうらやましいのでしょう。

「僕が植物をうらやましいと感じるのは、考えなくてよいからではありません。植物は、どのような環境の中にあっても美しく咲こうとし、種を残そうとするからです。
 それは遺伝子に組み込まれた形態なのかもしれませんが、僕はその姿に圧倒されるのです。」『跳びはねる思考』

 前述の文は、会話ができない自閉症者である東田直樹さんのものです。
 東田さんは、人の視線が怖いそうです。

「人はいつも刺すような視線で見ます。」
(NHK「君が僕の息子について教えてくれたこと」より。)

 刺すような視線とは、理解できないものを見るような視線なのでしょう。
 銀河を銀河とだけしか見ない学び方や生き方を一年間かけて、それ以外の面を見つけられるような学級にしていきたのです。

「人は見かけだけでは分かりません。中身を知れば、その人ともっと仲良くなれると思います。」
(『自閉症の僕が跳びはねる理由』より。)

四、一年の終わりにも巻頭詩
 毎日子どもたちが持ってくる国語教科書の最初のページには、あなたの学級を支える指針を示した巻頭詩が載っています。
 子どもたちとお別れする日に言ってください。
「学級びらきの最初に教えた詩を覚えていますか。」と。
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 今度の学級びらき講座用に考えたことが、そのまま原稿になりました。
 それが、学級びらき講座の準備にもつながってくれました。一挙両得です。

(2015.4.1)