重谷美保「中心人物の変容のないファンタジー作品を味わおう」『国語教育2015年7月号』(明治図書)のファンタジー作品は、何か分かりますか。
物語では、たいてい中心人物が最初と最後で変容します。
太一であれ、大造じいさんであれ、変容、むしろ向上的変容をしています。
中心人物は主人公、すなわちヒーローですから、苦難を乗り越え、人間的な成長を遂げるのが常道なのです。
でも、宮沢賢治の「注文の多い料理店」の紳士たちは、ちがいます。
重谷氏は、はじめの紳士が「欲深く、命の重みを考えていない」であり、その考え方は終わりでも変わっていないと、言います。(私もそう思います。)
ただ、「紙くずのようになった二人の顔だけは、…元のとおりになおりませんでした」のです。重谷氏は、なぜなおらなかったかを検討させることで、主題へとつなげられると、書いています。
短編集『注文の多い料理店』は1924年に出版されています。
この時代は、第1次世界大戦による好景気によって、成金が生まれています。 紳士のような成金を賢治が嫌い、作品の中でこっぴどい目に合わせたかったのだろうと、推測できます。
登場人物に対する愛のない作品ともいえるかもしれません。
(2015.7.25)