『学力研の広場』の連載第3回目、タイトルは「さらすことで個を鍛える」としました。
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「鍛える」はまだしも、「さらす」という言葉は、学校の文書では使えない。
しかし、「さらす」ことほど個を鍛えるのに、有効な手はない。
誰からさらして鍛えるといいのか
『大辞泉』によると、「さらす」には八つほどの意味があり、その一つは「広く人目に触れるようにする」ことである。
ただ、その例文はネガティブである。
・恥をさらす。
・醜態をさらす。
子どもにしろ、大人にしろ、恥や醜態はさらしたくない。当然である。
四月・五月の学級開きの時期は、さらす授業はすべきではない。全員が発表でき、正解がいくつもいくつもある問い(マルチ発問)を出すといいだろう。
個を鍛えるための素地(土台)を作るのが、この時期なのである。
さて、最初にさらす対象は、学力低位の子ではない。いわゆる優等生と思われる子をさらして、小さな恥をかかせる。
できる子がまちがえ恥をかくことで、できる子は油断できないと自省する。そして、できる子もまちがえる、という事実が、教室の中のできる子・できない子と決めつける偏見が消えていくのである。
教師の指示には複数のねらいがある
五年、分数÷整数の練習問題である。
「④までできたらノートを持ってきます。」
授業の中で、次のことを守るように要求している。
・分数の活線は定規で引く。
・途中の計算式は省略しない。
・式と式の間は一行開ける。
これらの要求は、丁寧さを身に付けさせるためであり、学力低位の子がまちがえないためでもあり、計算の速い子と遅い子の時間差を埋めるためでもある。
サラリーマン川柳に、
「接待はうらがあるからおもてなし」
というのが応募された。
教師の指示は、子どもの学びを助けるおもてなしのようなものでありながら、そこには当然うらもある。
練習問題を解かせている間に、私は黒板をチョークで八等分する。
①~④の問題を解いてきた子がノートを教師(私)のところへ持ってくる。
私は、四問の内、一問だけ選んで○か×をつけていく。
一問しか見ないのは、すばやくノートを見るためである。
「よくできた。」「賢い。」
「まちがえた。」「おしい。」
声かけも短く一言しか言わない。
もし、全問に○×をつけたり、×の子になぜまちがえたかを教えたりすれば、たちまち教室に列ができてしまう。
列が長くなれば、その列の同士で子ども同士のおしゃべりが始まったり、ふざけあいやけんかが起こったりする。
ただ、それだけがねらいではない。
練習問題が全問解けた子は、①から順に一人ずつ⑧まで八人が板書する。
「分からない問題は、板書を参考にしてもいいですよ。でも、前のが合ってるとは限りません。」
私が丸をつけたのは一問だけである。
板書する八人中七人は、自分の解答が正解かどうかは分からない。(多くの子は、自分のは合ってると思い込んでいる。)
つづく
(2016.12.10)
原稿のつづきです。↓
答え合わせのとき、板書した子に書いたものを読ませていく。
「2と8分の5わる3は、8分の21わる3は、8かける3分の21、3と21を3で約分して1と7、8かける1分の7は、8分の7。同じ人?」
このような言い方で、すらすら言えることを板書した子には要求していく。答えの後に、
「同じ人?」
と言わせる。
答えが同じだった子は手を挙げる。
もし、手が挙がらなければ、自分の答えがまちがえである可能性が高い。
「同じ人?」を言うのも、結構、どきどきするそうだ。
避けることのできない場に立たせる
「さらす」には、「避けることができない難しい事態に身を置く」という意味もある。
例文も物騒である。
・危険に身をさらす。
・敵の脅威にさらされる。
教師に指名し、発表させられることは、子どもにとって、避けることができない難しい事態である、と捉えることもできる。
それゆえ、担任である教師が、子どもたち一人一人の成長を忖度しながら、その子を鍛えるために、さらす場を意図的に作っていく必要がある。
教師自らがさらす場に身を置く
学校の研究授業を何年もしていない教師がいないだろうか。
様々な事情はあるだろうが、自分の授業を人前(同僚たち)に、さらす勇気のない場合が多い。
また、たくさんの掲示物を準備し、子どもから出てくる発言を短冊にして貼っていくような研究授業もある。手堅く守りに入った授業といえる。要するに、自分の醜態をさらしたくないのである。
子どもであっても、大人である教師であっても、自らをさらすことは、それほどまでに難しい。
だからこそ、さらす場に身を置くことで、個が鍛えられていくのである。
学力研では、毎年夏に全国フォーラムを開催し、二日目に学年分科会を行っている。
そして、ミニレポートの報告も募集している。
ぜひ、自分の実践をさらすことに挑戦していただきたい。
この『学力研の広場』にも、ぜひ、私(荒井)あてに、原稿を送っていただきたい。
学力研会員であれば、誰でも投稿することができる。
まずは、自分という個を鍛えることからスタートしてほしい。
(2016.12.11)