「学力研の広場」3月号の原稿です。
「授業づくりに必要な心構え⑥ 研究授業で鍛える」です。
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二〇二〇年度以降の次期学習指導要領改定案が、文科省から発表された。
二月一四日の毎日新聞に、新指導要領の骨子が書かれていた。
・小学5、6年の英語を教科化し3、4年に外国語活動を前倒し
・小学校のプログラミング教育を必修化
・全教科で「主体的・対話的で深い学び」の視点による授業改善を図る
・読解力を育成するため小中の国語で語彙指導などを拡充
・主権者教育、防災教育など現代的課題への対応も重視
「主体的・対話的で深い学び」とは、アクティブ・ラーニングを日本語に改めたもの。討論や発表を通じて行うそうである。
先月号で「討論で集団を鍛える」ことを書いたが、討論の有効性を文科省も認めて
きたようである。
鍛えられた集団を参観する
二月の初め、四年の国語授業を参観した。
「ごんぎつね」の山場である第六場面を扱い、クライマックスはどこかを討論する授業であった。
学級集団が鍛えられていることが授業を参観していてよく分かった。
子どもたちは、教科書を立てて、張りのある大きな声で音読していた。交代読みでは、一つの場面を個→全員→個→全員の順で読んでいた。その場面を同じ子が、集団に負けないような声で何度も読むのである。
物語を読解するための学習用語も、子どもたちは使いこなしていた。
登場人物の視点が山場で、中心人物ごんから対人物の兵十に変わっていることに、文章の言葉を根拠にして気付くことができていた。
クライマックスがどこかでは、三つに意見が分かれ、指名なしで子どもたちが次々と発表していった。
新指導要領の「主体的・対話的で深い学び」がすでにできている授業であった。
研究授業を受ける
私も四年生を担任したとき、「ごんぎつね」で研究授業をしたことがある。
研究授業をするなら、二学期の終わりか三学期の初めがいい。
なぜ、その時期か。
子どもたちの成長した姿を他の先生方に見ていただくためである。
多くの研究授業にあることだが、予想される意見の短冊を作ったり、教科書のさし絵をカラーコピーしたりと、教師のがんばりを披露している。
一番見せるべきは、子どもたちが堂々と音読し、自分の意見をノートにびっしりと書き、文書を根拠とした意見を発表する姿である。
とはいっても、一朝一夕で、子どもたちの力はついていかない。
多様な答えの出るマルチ発問を何度も出し、学級全員の誰もが、自分の意見をたくさん書ける状態にする。
作文や日記で、書く耐性を作り、そして、 二者択一のセレクト発問で、選んだ理由をノートいっぱいに書けるようにしていく。
指名なし発言で、誰もが自分から立って発言できるようにしていく。
発言者の意見をノートにメモし、賛成や反対意見を言えるようにしていく。
このようなことを日々の授業を通して、くり返すことによって、子どもたちは集団として鍛え上げられていくのである。
教師自身を鍛える
研究授業に向けて、子どもたちを鍛えるとともに、教師も我が身を鍛えていく必要がある。
よく言われることであるが、教師が考える以上の深い意見は子どもたちからは出ない。子どもたちの力量は教師の力量に規定されるのである。
もちろん、教師を超えるような意見を出す子がいるかもしれない。
しかし、その意見を受け止める教師がその意見の価値を知らなければ、授業の場でその意見を活かすことはできない。
「ごんぎつね」の第三場面で、子どもたちから次のような疑問が出た。
A なぜ、兵十が麦をといでいるのか。
B なぜ、くりや松たけを兵十に、ちょくせつわたさないのか。
C 兵十の家の前のいどは、赤色なのか。
このような疑問が子どもたちから出るのも、ノートにたくさんの気付きを書かせているからである。
AやCのことから、兵十が貧乏であることが分かる。井戸が赤いのは、素焼きの粗末な井戸だからである。
Bは、子どもたちに検討させるといい。
第六場面で分かるが、ごんが兵十に見つかれば、撃ち殺されるかもしれないのである。何しろ、兵十は猟師である。(だからこそ、火縄銃を持っている。)
一見すると、授業の中では見逃してしまいそうな疑問だが、教師が「ごんぎつね」について、しっかりとした教材研究をしていれば、子どもたちの疑問から授業を深めることができる。
(私自身は、「ごんぎつね」に関係する本を夏休みに25冊読んだ。この点は、有名教材ゆえに可能なことである。)
ベテランになると、研究授業を避ける教師が出てくる。
いろんな事情はあろうが、自分の授業を多くの先生方の前にさらし、いろんな意見をいただける場は貴重である。
学級集団を鍛えたいと思うならば、教師自身をも鍛えていく必要がある。(打たれぬ鉄はもろい。)
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「集団を鍛える」というより、むしろ「集団の中で個を鍛える」という方がしっくりくるような気がします。
別の観点から言えば、「個が活かされるように集団を有機的に機能させる」といってもいいかもしれません。
(2017.2.19)