教師が知を深める

『学力研の広場』の連載「授業づくりに必要な5つの心構え」の第7回は、「知を深める」です。
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第四の心構え「知を深める」
「知」とは、知識・知恵・知力・知性・知的好奇心などを指す。
 授業の中で、知識を増やし、知恵をつけ、知力を磨き、知性を高め、知的好奇心を持たせることが、大切になってくる。
 知識が増えれば、自分に自信が持てる。
 知恵をつけることで、困ったことに対処できるようになる。
 知力を磨くことで、賢くなる。
 知性が高まると、品性も良くなる。
 知的好奇心を持つことで、毎日が楽しくなる。学ぶ楽しさは、知を深めることから始まる。

 しかし、新年度を迎えた四月は、子どもに「知を深め」させてはいけない。
 学級開き・授業開きからの数週間は、第一の心構え「全員参加」を優先するべきなのである。この時期に「知を深める」のは、教師だけでいい。
 全員参加・全員発言の授業を展開し、その中で、教師が授業のねらいに迫る深め方を提示する。
 こうすることで、日々の授業は安定していくのである。

四月に全員発言の授業を目指す
 四月、学級全体の場で、一人一人全員の声を出させることが大切である。
 三月までは、まったく発言しなかった子が発言できる子に変わるのは、この時期しかないだろう。
 なぜなら、四月はリセットの時期だからである。
「あの子はおとなしい。」
「あの子はよく発表する。」
 学級内での一人一人の子に対する印象は、固定されがちになる。
 家では、元気いっぱいで、話し出したら止まらないような子が、学校では暗い顔をして、一言も話さない場合があったりする。
 環境が、その子を規定してしまう。
 人は行動を通してしか変わらない。
 授業中に発言するという行動を通して、変わるきっかけを与えるのである。(つづく)
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 今回は、私のミスで2ページの原稿が1人分、足りません。そこで、私の原稿を2ページから4ページにしようと考えています。(結構、大変ですが。)

(2017.3.15)

 4ページの分量(文量)は多いですが、じっくり書けるのがいいです。
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マルチ発問で全員発言させる
 四年社会の授業「命とくらしをささえる水」で、次の発問をした。
『水がなくなるとどんな困ったことが起こるでしょうか。』
 暮らしの中、水を使う場面が多いので水がなくなって困ることは、誰でも考えることができる。(一問一答でなく、一問多答の発問をマルチ発問という。)
 この時期は、挙手指名を極力避ける。ノートに箇条書きさせるのである。
『四個書けたら持ってきましょう。』
 持ってきたノートに○をつけながら、
『よく書けたね。』
と、ほめる。そして、その中から一つを黒板に書かせていくのである。

・おふろに入れない。
・夏ならねっしゃ病になる。
・水道がつかえなくなる。
・ぞうきんを使ったそうじができない。
・やさいが食べれなくなる。
・犬に水をあげられない。 ・人が生きれなくなる。 ・水がのめなくなる。
・プールにはいれない。  ・火を消せない。    ・トイレの水がながせない。
・顔があらえなくなる。  ・車があらえない。   ・あらいものができなくなる。
・のみものがなくなる。  ・暑くなる。      ・歯みがきができない。
・花や木がかれる。    ・トイレがつかえない。 ・せんたくきがつかわれへん。
・うがいができない。   ・お風呂に入られない。 ・教室のそうじができない。 
(縦書きに板書。下に名前を書かせる。)

 板書した子に空白の時間を作らせないために、次のようなことを言うといい。
『8個書けたら四年生レベルです。』
 そして、多く書けた子を取り上げてほめると、子どもたちは、数多く書こうとがんばるようになる。
 この時期は、質より量を求めさせる。
 質を要求してしまうと、自分や学習に対して自信のない子は意欲をなくしてしまうのである。

 黒板が子どもたちの意見で埋まった段階で、発表にうつる。
 まずは、板書していない子を立たせ、ノートに書いてあることから1つを必ず発表させる。
 この後に、黒板に書いてあるものを右、もしくは左から順に、書いた本人に読ませていく。
 読ませるときに大切なことは、書いてある通りに読ませることである。補足や付け足しをさせると、全員が発表するための時間が奪われてしまうからだ。
 この時期には、発表に対して、質問や反対意見を言わせてはいけない。
 発言耐性をつくる。
 これが、四月の目標といっていい。
 この時期、発言することに、まだまだ抵抗感が強い子が何人もいる。
 発言したら、質問されたり、反対意見を言われると思えば、やがて発言自体をしなくなる可能性が高いのである。
 発問に対する答えなら、何を言ってもゆるされ受け入れられる。
「全員が発言することが当たり前」という空気を学級の中に築いていくのである。

発言の中から授業のねらいに迫る
 子どもたちの発言の中から、授業のねらいに迫れるものを教師が選ぶ。
『水がなくなると野菜が食べられなくなるとありますが、なぜですか。ノートに、なぜなら、~から。と書きなさい。』
 数分後に、書けてる子に挙手をさせて発表させていく。
 このような難しめの問題は、全員に答えることを要求せず、先行集団に発表させていくとよい。
 もちろん、全員発言が先にあり、その残った時間での発表である。(全員発言だけで一時間が終わってしまっても良しとする。)
「なぜなら、野菜は水がないと育たないからです。」
「なぜなら、水がないと、野菜を洗えないからです。」
「なぜなら、野菜はほとんど水でできているからです。」
 発表の後に、さらに深める。
『水がないと育たないものは野菜だけですか。(「ちがう」と声が挙がる。)水がないと育たないものをノートに箇条書きしましょう。』
 これはマルチ発問になるので、数分後に、列指名で発表させるといいだろう。
 列指名をするときは、指名した列を覚えておき、一時間もしくは一日の中で、全列が指名されるようにする。
「果物。」「お米。」「お花。」「植物。」
 数列指名した後、
『他にもある人?』と聞く。
「牛。」「犬。」「人間。」
 他にもを聞いていくと、突拍子もない発言も出てきて、教室に笑いが起こる。
「何でも発言していいんだ」という空気が拡がっていく瞬間である。
『逆に、水があまりなくても育つものは、ありますか。思いつく人?』
 これは挙手発言でいい。
「サボテン。」
 この後、サボテンが水の少ない砂ばくに育つことや、それでも水が全くなければ枯れることなどを教えてもよい。
 子どもの発言の一つを授業のねらいにからめて掘り下げること、それを教師がするのである。
 ただし、三学期になれば、その掘り下げを子どもたち自身ができるようになる。
 でも、今はその時期ではない。
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 ここまで書いて、原稿はあと1ページ半分あります。
 ずっと文字ばかりなので、ここらで、イラストや写真などの画像を入れた方がいいでしょう。5年生の社会科の導入として使える五円玉の授業を紹介するのもいいかもしれません。
 ただ、五円玉の裏を見せてから、表を予想させて書かせる授業ではあるが、一つの正解を求める授業であり、マルチ発問とは言い難いです。
 全員参加を成立させるために、B4を8等分した紙に、五円玉の外枠だけを印刷したものを配り、それを全員分集めて、8枚ずつ写真を撮り、iPadで全員分を提示してから、正解を発表していくといいかもしれません。

(2017.3.16)

 4ページの原稿でしたが、意外と書けるものです。
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全員参加を成立させる
 右の画像を見ただけで、何の授業かを予想できる人は、教師としてよく学んでいる人である。
 知らない人は、上の硬貨が何円玉か予想してほしい。
 さらに、その表側がどうなっているかを何も見ないで描いてみてほしい。
 五年生を担任するなら、社会科の導入として、この授業の追試をお勧めする。
 最初に右の画像かイラストを提示する。
『これを見たことがある人?』多くの子が手を挙げる。
『見たことがない人?』数人、手が挙がる。
『どっちにも手を挙げてない人?』
 当ててみると、
「見たことがあるか分かりません。」
『見たことがあるか分からない人?』と、即座に聞く。
 こうした挙手で意見を表明させるときも、全員参加させていく。
 どこにも手を挙げてない子を作らないことが大切なのである。
『隣の人がどこに手を挙げるかを見ておきましょう。』
と、言っておくのもいい。挙手の人数を数えて、合計が学級全員分になっているかを確かめることも、時には必要である。
『これは、五円玉の裏です。五円玉を見たことがある人?』
 ほぼ全員の手が挙がる。全員が手を挙げてないなら、
『今、手を挙げてない人は立ちます。』
と言って立たせ、本当に見たことがないのかを確認するといいだろう。
 最近は、携帯やカードで買い物をする人が増えてきている。子どもに一切、お金を持たせない家庭もあるだろう。
 五円玉を見たことのない子どもたちが出てきてもおかしくないのである。
『五円玉を見たことがある人もがない人も、五円玉の表を思い出して、もしくは予想して描いてみましょう。』
 この時、B4用紙を8等分した紙に、五円玉の丸枠を印刷したものを全員に配るといいだろう。
 時間を五分与えて描かせてから、その紙(プリント)に名前を書かせて、全員分、集めるのである。そのプリントを8枚並べて、実物投影機やタブレットなどを使い、テレビ画面やプロジェクターで映す。
 全員分が描いたものを全員に見せるのである。(これも全員参加である。)

 人数が少なければ、左のように、全員に板書させてもいいだろう。
 この後に、ちょっとずつ正解を教師が告げていく。
『五円玉ですから、どこかに「五円」があります。』
「五円」を誰が描いているか確認していきます。
『「五円」は全て漢字です。』
「5円」より「五円」である。
『何かの植物があります。』
 植物の描いてあるものを確認し、何の植物か言わせていくといいだろう。
「ひまわり。」「お米。」
『この植物は、稲です。稲からお米が実ります。』
 この後、稲の位置を確認する。

 こうして、五円玉にあるものを確認してから、稲が農業、水線が水産業、歯車が工業を表していることを教える。
『五年生の社会では、五円玉の中にある農業・水産業・工業についても学習します。』
 いつも使っている五円玉の奥深さに、子どもたちは授業を通して学ぶわけである。

 全員参加・全員発言の後こそ、知を深める教師の出番なのである。

(2017.3.17)