知を深める教材の扱い方

「学力研の広場」5月号の原稿です。連載も8回目となりました。
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「VW」という言葉をご存知だろうか。
「W」は「Work」で仕事を指す。
 でもただのWorkではなく、「Hard Work」のことである。
 教師の仕事は、どうしてもハードワークになりがちである。教材研究はいくらでもできる。子どもたちの宿題や作文を見たり、校務分掌の仕事をしたりと、際限がない。
 でも、そこに「V」がないとダメだ。
 iPS細胞の山中伸弥教授が次のように言っている。

 日本人は概して勤勉ですから、ハードワークについては問題ありません。しかし気がつくと、「ハードワーク」をすること自体に満足して、ビジョンを忘れがちになってしまう。(『日経ビジネスAssocie2017.4』より)

「V」とは「Vision(ビジョン)」である。

効率的な教材研究が知を深める
 国語の教科書には、詩があり、物語があり、説明文があり、漢字や言葉の使い方、作文など、さまざまな教材が載っている。
 どちらかといえば、それぞれのジャンルの教材が交代で出てくる構成であり、詩なら詩だけがずっと続くわけではない。
 それゆえ、目の前の教材だけにこだわっていると、一つのジャンルの教材同士の関連性を忘れてしまうことがある。
 そこで、最初に詩が出てきたら、その次に出てくる詩も一緒に教材研究しておく。そして、最初に詩で学んだことが、次の詩を学習するときに活かせるようにする。
 例えば、光村の五年国語教科書なら、最初に「銀河」(P.1)という巻頭詩が登場し、すぐに室生犀星の「ふるさと」(P.13)が出てくる。その次に詩は9月で、北原白秋の「からたちの花」(P.94)である。
「ふるさと」と「からたちの花」は、同時
に教材研究すると見えてくることがある。
 どちらの詩も季節感がありながら、「ふるさと」は春を、「からたちの花」は春夏秋冬を表している。どちらも七・五音のリズムで構成され、破調があるところも共通している。しかし、主題は大きく違うのである。
 二つの詩を対比し、教材研究するからこそ見えてきたわけである。

他教科の関連が知を深める
『新しい国語五』(平成27年度版、東京書籍)で、最初に出てくる説明文は、増井光子の「動物の体と気候」である。
 ちょうど同じ時期に、『小学社会5上』(平成27年度版、教育出版)で「日本の地形と気候」の学習がある。
「動物の体と気候」「日本の地形と気候」
 二つ並べてみるだけで、まったく同じ構成になっていることが分かる。
 国語の「動物の体と気候」では、説明文からの情報収集力を鍛えたい。
 そこで、右のような表を子どもたちとともに作り、その表の中に、当てはまる情報を説明文から探させて書き込ませる。
 国語で、この表を作らせたのであるから、同じように社会の「日本の地形と気候」でも作らせるといい。
 教科同士が関連しあって、子どもたちの情報収集力が鍛えられるのである。

他学年との関連が知を深める
 算数で、新しい概念を教えることがある。
 例えば、四年生の「面積」である。
 広さを表すために、1㎠という普遍単位を使うことを教える。
 さらに、五年生の「体積」の学習がある。
 これも、立体のかさを表すために、1㎤という普遍単位を使うことを教える。
 面積と体積の基本は、「1㎠や1㎤が何個あるか」である。
 普遍単位を教える前にやるべきこともある。それは、直接比較・間接比較・個別単位による比較である。
 これは、二年生の「水のかさ」の教え方を元に考えると分かりやすい。
 例えば、水筒の中に入る水のかさを比べるなら、満タンにしたAの水筒の水を空っぽのBの水筒に入れてみればいい。水があふれれば、Aの方のかさが大きく、まだ水が入りそうならBの方のかさが大きいことが分かる。これが、直接比較である。
 詳しくは省略するが、間接比較や個別単位による比較を通して、普遍単位の必要性が分かってくる。
 新しい概念を教えるならば、学習する上での手順を正しく踏むべきだろう。
 ハードワークの日々に、ついつい自分の学年の、今の教えている教材だけに目が向きがちにある。しかし、今の教えることは、これまでの学びが受け継がれていることを忘れてはいけない。
 とはいっても、持ったことのない学年の学習が想起できないだろう。
 でも、教師自身の知を深めるために、自分が担当している学年以外の授業にも触れるべきである。
 例えば、教育系のサークルに参加するのも一つの手であろう。様々な学年を担当する先生が一同に集まるので、他学年の実践を学ぶことができる。
『教育技術』(小学館)のデジタル版を年間購読すれば、全ての学年誌を読むこともできる。
 ビジョンを持って学んでいきたい。

(2017.3.31)