福山憲市氏の講座

「とう年とって、28歳になりました。」
というのが、福山氏の開口一番の言葉である。
「とう(十)年」とるから、福山氏の年齢は38歳ということになる。
 私の場合なら、「とう年とって、23歳になりました」となるわけだ。
 現在、福山氏は算数のT・Tをされている。
 福山氏が算数を教えだしたとたん、平均70点ほどしか取れないクラスが、平均90点台をとるようになったということだ。
 福山氏は、この講座で、「比と比の値」の模擬授業をされる予定だった。
 しかし、やっぱり福山氏は、脱線またまた脱線の講座となってしまった。
 何しろ授業開始後5分間を語るのに、1時間以上の時間を使うのだから。
 ようするに、それだけ、情報量が多いということだ。一つのことを話してる内に、それと関連することが次から次へと想起されていくのだろう。
 まあ、脱線のない福山氏の講座は、具のないカレーみたいなものだが。

(1)ぼんさい人間
「ノートを開きなさい」と言われたら、ノートだけ開いてぼうっと待っているような指示待ち人間のことである。
 鉛筆を出し、日付や曜日を書くことを教えていかなくてはいけない。
(2)素材研究…全社のテスト・ドリルを見る
 福山式教材研究である。全社のテストやドリルを見ることで、教科書のすき間を見つけられるそうだ。向山氏のジャンプを見つけるのと、発想が似ている。
(3)おしい!
 福山氏はよく「おしいなぁ」という言葉を使う。
「あってるけど、花丸じゃないなぁ。」
 子どもにより高いものを求める姿勢が、すごいのだ。
 例えば、「赤い玉はいくつありますか?」という問題に、「2こ」だけ答えると、「えらい。よくできたね。でも、おしいなぁ。」と言われる。
「2こです。」少しいい。
「赤は2こです。」もうちょっとだ。
「赤い玉は2こです。」ここまで、福山氏は要求するのである。
(4)「おふくろ」と「おしつけ」
「最近は、おふくろの味の「お」がなくなってきました。」
「お」をとると、「ふくろの味」である。
「そして、その「お」が躾につくようになってきたんですね。」
 躾に「お」をつけると、「おしつけ」となるのである。いい話だ。
(5)手話は笑顔で
「手話は、だまってやりません。」
 声を出しながら、笑顔でやるというのである。その笑顔を見て、相手は安心するのだそうだ。
 ということは、耳の不自由な人に出会った時、まちがえずに手話をすることよりも、まずは笑顔を見せることが大切ということだ。なるほど。
(6)叱らない
 福山氏は、学習のことでは、決して叱らないそうである。
 例えば、空手を教える時でも、
「あんた上手。でも、握りがわるいね。10点満点中5点。あと5点何が足りな いか考えてごらん。」 
 福山氏は、チェックはつけるが×はつけないそうだ。
 そこに福山氏の教育観がある。
「あなたは○。でも花丸じゃない。」という感じだ。
 私が100点満点のテストを120点満点してしまうのと、ちょっと似てるような気もする。

 水野正司氏と福山憲市氏の講座のあと、岸本裕史先生が、「おふたりとも、子どもを慈しみ、くわえて、厳しく鍛えている」とおっしゃっていた。
「個性というものは、一流にならないと、出てこない。」と岸本氏がピアニストから聞かれた話を紹介してくれた。
 水野氏も福山氏は、実に個性が違っていた。お二人とも一流だからであろう。

(1998.8.3)